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安倍長期政権を思い出せ。政権維持の最大基盤は日銀人事の勝利がすべてだ/倉山満

安倍長期政権を思い出せ。政権維持の最大基盤は、日銀人事の勝利がすべてだ

言論ストロングスタイル

左から、日本銀行政策委員に提示された野口旭専修大学教授と、黒田東彦日銀総裁。野口氏の就任で委員会内のリフレ派は4人となった 写真/時事通信社 朝日新聞社

 ガースーは死なず。久しぶりに明るい話題を聞いた。  別に菅義偉首相に未来永劫、政権を維持してほしいなどと思わないが、首相就任から半年も経たずに引きずり降ろそうなど、理不尽にもほどがある。特に、コロナ禍では誰がやっても上手くいくはずがないとするなら、なおさらだ。誰がやっても上手くいかないなら、何が気に食わなくて菅首相を引きずり降ろそうとするのか。マスコミは菅内閣の支持率低下を伝え、政官界には急速に「菅おろし」の声が広がる。では、菅首相を降ろして、どうしたいのか?  片一方で「コロナはペストのような危険な伝染病だから国民はいかなる我慢にも耐え忍べ」と命令しながら、「経済は回さねばならない」との大義名分で自粛は中途半端となる。ジレンマだ。さらに財務省は予算支出を嫌がり、トリレンマとなる。結果、政界工作が上手な業界には「GoTo~ナンチャラ」と称して補助金がもらえるが、本当に困っている人々は生活苦にあえぐ。これでは何をやっても不満が生じる。  本連載でも再三、今次コロナ禍において政策を転換しなければ、菅内閣の命脈は短いと指摘してきた。携帯電話の値下げやNHK改革、あるいはデジタル庁創設では、歴代政権が成し遂げられなかった結果を出している。だが国民には、まったく評価がされていない。理由は二つ。喫緊の課題として国民の願いは「コロナ禍を何とかしてくれ」であり、これがすべての課題に優先する。さらに根本的には、コロナ禍より前から我が国は慢性的不況に苦しめられてきた。前安倍政権が常に100名に満たない野党を相手にしながら何一つ実績を出せないのに8年も政権を独占できたのは、曲がりなりにも景気を回復軌道に乗せていたからだった。  ここで安倍内閣無敵の方程式を思い出せばいい。「日銀が金融緩和をする→株価が上がる→支持率が上がる→選挙に勝てる→誰も引きずり降ろせない」である。つまり、政権維持の最大基盤は日本銀行なのである。事実、安倍晋三前首相は、デフレにより日本国民を苦しめた白川方明前総裁の辞表を取り上げて黒田東彦総裁を送り込み、金融緩和による景気回復を唱えるリフレ派の理論を実践した。安倍前首相は日銀人事だけは、ほとんど間違えなかった。すなわち、安倍長期政権は日銀人事の勝利がすべてであったと断言しても過言ではない。

日銀人事とは何か

 では、日銀人事とは何か。管理通貨制において金融政策は経済政策の中心を占める。日本の金融政策を決定するのは、日本銀行政策委員会である。同委員会は、総裁1人、副総裁2人、6人の委員の、計9人で構成される。全員が対等の1票。過去には重要な政策が5対4で決定されたこともある(ハロウィン緩和)。極端でも何でもない話、日本を好況にするのか不況にするのか、9人で決める。断言するが、総理大臣の最高権力とは、この9人を決めることにある。  ただ、人事慣例として「枠」が存在する。総裁と副総裁は財務省と日銀のプロパーから。現在は、総裁が財務省出身の黒田氏なので、次は日銀で「プリンス」とされる雨宮正佳副総裁、「雨宮総裁」実現の折には財務省が副総裁で……とたすきがけ人事が予定されている。  もう一人の副総裁は「学者枠」で、今の若田部昌澄副総裁の前職は早稲田大学教授だ。  6人の委員は、産業界から3人(内1人はメガバンクから)、学者と民間エコノミストから2人、女性1人との、枠がある。
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コロナ禍で金融緩和を止めたら、日本経済は即死する
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