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「新しい資本主義」とは結局何なのか?自民党の討議資料から考える/倉山満

頼む! 普通の資本主義をやってくれ……

岸田文雄首相

6月1日、衆院予算委員会で立憲民主党の泉健太代表が岸田内閣の経済政策について質問中、頭をかく岸田文雄首相。しかし、本当に頭をかきたいのは国民のほうかもしれない 写真/時事通信社

 岸田文雄首相が長期政権を築きたいと思っているのは誰の目にも明らかだが、何をしたいのかはさっぱりわからない。ただ岸田首相も、何も実績がないのは恥ずかしいとの自覚はあるようだ。そこで打ち出されたのが「新しい資本主義」だ。  報道ではようやくその一端が明らかになりつつあるが、それが何なんなのか、さっぱりわからない。とにかく「新自由主義」を批判したいのだけはよくわかった。仕方がないので、自民党の討議資料を取り寄せてみたが、余計に何のことやらさっぱりわからなくなった。  そもそも、岸田首相と取り巻きは、自由主義と資本主義を区別しているのだろうか。そこからしてよくわからない。その上で「新」だの「新しい」だのを加えるから、余計にわからなくなる。

そもそも資本主義とは何か?

 普通、経済的自由主義のことを資本主義と呼ぶ。経済活動の自由が認められ、機会が保証され、結果として個人が所有する財産に差が出るのは仕方がないと考える、主義のことだ。近代経済学、自由主義経済の祖とされるアダム・スミスは、政府が可能な限り民間の経済活動に介入しないことを説いた。つまり、政府がマクロ経済に対してできる唯一の事は、民間の邪魔をしないことである。  スミスの考え方は、世界中の真っ当な経済学者の基礎となっている。ただし、重大な修正は絶えず加えられ、多くの学派に分かれているので、「自由主義=資本主義」ではない。  スミスに対する最大の修正者は、ジョン・ケインズである。1929年の世界大恐慌において、スミスの「政府は市場に介入すべきではない」との説を盲信した各国政府は、なすすべがなかった。そこでケインズは、「不況の時に限定した理論であるが」と断った上で、「政府は民間ではなしえない公共事業などにより市場に介入すべきである」と説いた。これが修正資本主義である。

経済理論は政府と市場のどちらを信じるかの思想

 基本的にスミスの理論を土台にケインズの方策が付け加えられているのだが、いつのまにか日常的に政府は公共事業を行い、福祉をバラまくべきだとの説も有力となっていった。  スミスの自由主義経済学には「市場の失敗」がつきまとうし、ケインズに始まる修正資本主義においても「政府の失敗」がつきまとう。いつの時代、どこの国でも通用する経済理論などは無いが、政府と市場(民間)のどちらを信じるかの思想である。規制を緩やかにして民の活力を強めて税の自然増収による政府運営を基礎とするのか、それとも政府の民間に対する規制を強くして重税を課すのか。明らかに前者の方が、自然な経済法則に適する。  だが、民間を規制し、重い税を課し、その税を財源に一部の業者に補助金をバラまき、公共事業や福祉を行う。権限が増え、民に対する支配力が強まる以上、市場への介入に政府が飛びつくのは世の常だろう。どこの国でも政府の権限が強化、民間への規制が強まり税金は高くなっていった。
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岸田首相の言う「新しい資本主義」など、「竹中的な政策の是正」くらいの意味しかない
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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