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ネオコンの挑発が米中戦争を引き起こす<元外交官・東郷和彦氏>

アメリカの責任は重大

―― 東郷さんは『プーチンVS.バイデン』で、戦争を始めたプーチンを厳しく批判する一方、アメリカのバイデン大統領にも責任の一端があると指摘しています。 東郷 バイデンは昔からプーチンに批判的でした。バイデンはオバマ政権の副大統領として、首相だったころのプーチンと会談していますが、その際「あなたには、心というものがないようですね」と面罵しています。バイデンはこの話を自らの著書『約束してくれないか、父さん』の中に自慢話のように記しています。しかし、こんな外交は亀裂を深めるだけです。  ウクライナでは2013年秋から2014年にかけてマイダン革命が起こり、親ロ派のヤヌコーヴィッチ政権が瓦解しましたが、ここにもバイデンは関わっていました。当時、オバマ政権で国務次官補を務め、副大統領のバイデンのもとでウクライナ問題を担当していたビクトリア・ヌーランドが、ヤヌコーヴィッチ政権の体制変革を訴えている音声データが流出しています。バイデン自身もヤヌコーヴィチと密に連絡をとっており、彼を辞任・逃亡に追い込んだことを明かしています。  バイデンの思想は端的に言ってネオコンそのものです。ネオコンはアメリカの掲げる自由と民主主義を絶対的な価値観と考え、その実現のためには武力行使さえためらいません。ブッシュ政権で副大統領を務めたチェイニーがその代表格です。  ブッシュ政権が共和党政権だったこともあり、ネオコンと言えば共和党のイメージがあるかもしれませんが、この思想は共和党・民主党を超えて広く共有されています。バイデン政権で国務次官に出世したヌーランドもネオコンとして有名ですし、彼女の夫のロバート・ケーガンもネオコンの代表的論客として知られています。  ネオコンからすれば、ウクライナでマイダン革命を起こすことも、現在のウクライナを支援することも、自由と民主主義を実現するために当然のことであって、誰からも非難されるいわれはありません。しかし、プーチンから見れば、これは明らかな挑発です。とりわけNATOがウクライナまで東方拡大してきたことは、絶対に許容できないことでした。それゆえ、プーチンは武力行使という最後の手段に出たのです。  戦争が始まった直後、西側のメディアは「挑発なき戦争」と報じていましたが、これは見当違いと言わざるを得ません。西側にその気はなくとも、プーチンは挑発されたと感じていたのです。フランスのエマニュエル・トッドも、戦争を誘発したのは西側であり、この戦争は簡単に避けられたと強調しています。このことを踏まえなければ、今回の戦争の本質はつかめないと思います。

中国を挑発するネオコン

―― バイデン政権は中国に対してもロシアと同じスタンスで臨んでいます。これでは米中対立が深刻化し、台湾をめぐって武力衝突が起きかねません。 東郷 私は中国が台湾に武力侵攻する可能性は低いと見ています。先日、中国の習近平国家主席が中国共産党大会で改めて台湾統一への意欲を示しましたが、ウクライナの状況を見ればわかるように、武力を行使すれば中国側も無傷ではいられません。  中国からすると、武力を用いなくても台湾を実質的に統一することは可能です。経済関係をもっと緊密にすることも一つの方法ですし、台湾で国民党政権が誕生するだけでも雰囲気はがらりと変わると思います。  問題は、バイデン政権が中国を挑発した場合です。バイデンが自由と民主主義を絶対のものと考え、プーチンに示したような態度で中国に臨めば、中国を挑発した気がなかったとしても、中国側は挑発されたと感じ、台湾への武力侵攻に踏み切る恐れがあります。  その際、もし米軍が直接参戦すれば、それは即、第三次世界大戦を意味します。そうなれば世界が崩壊する可能性さえあります。  こうした事態を避けるには、何よりもまず、アメリカがネオコンの発想から脱却する必要があります。  いまアメリカではネオコンばかり目立っていますが、アメリカには国と国との力関係から国際政治を分析するリアリストと呼ばれる人たちもいます。彼らは他国に自由や民主主義といった価値観を押しつけることは間違いで、それはむしろ国際社会を混乱させるだけだと考えています。その代表が元外交官のキッシンジャーであり、シカゴ大学のミアシャイマーです。彼らの現実主義的な考え方が広がれば、アメリカがいたずらに中国を挑発することはなくなるでしょう。  日本としても、リアリズムの立場からアメリカのネオコン思想とは一線を画す必要があります。そして、ネオコンによる中国の挑発を食い止めるべく、日本外交が主戦場とする北東アジアで、近隣諸国と積極的に協力関係を築いていくことが期待されるのではないでしょうか。 (11月11日 聞き手・構成 中村友哉) 初出:月刊日本12月号
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2022年12月号

特集 米中戦争の危機 日本を戦場にしないために
ひろゆき氏の沖縄ヘイト
右派政党の台頭を招く「西洋の没落」

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