「菅総理はトップの器じゃない」パンケーキにダマされた<後編>
2020年9月に安倍晋三元首相の体調不良による辞任をきっかけに発足した菅義偉内閣。
同年秋から始まった「Go To トラベルキャンペーン」によるコロナ感染の再拡大や、長男による総務省幹部への違法接待問題、そして順調とは言い難いワクチン接種計画、感染拡大が収まらない中でのオリンピック開催などで、菅内閣は支持率を急激に下げています。
菅首相と言えば「パンケーキ」。内閣発足当時、堅い感じの風貌とは裏腹の愛らしい好物に好感を持った人も多かったようです。ところが、その中身はどうなのか……。そんな思いを込めた菅義偉首相の政治手法に迫ったドキュメンタリー『パンケーキを毒見する』が7月30日から新宿ピカデリー他全国で公開されます。
前回に引き続き、権力を監視するメディアの役割や自民党一党支配の理由などについて話を聞きました。
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【前編を読む】⇒菅総理はサラリーマン的に“人事”で脅す。笑うしかない裏側に迫る
――映画の後半では赤旗が「桜を見る会」のスクープをしたことなどを取り上げて、ジャーナリズムの在り方についても言及しています。
内山:菅内閣を追っていく中で、総務省の幹部官僚たちが広告代理店から接待を受けていたことが明らかになりましたが、最近の政治に関するスクープは新聞発ではなくて週刊文春発なんですね。新聞の役割は何なのだろうかということを考えざるを得ませんでした。なぜ新聞がスクープを取れないのかと。
昨年の10月、菅首相が大手の新聞記者を招いてパンケーキを食べながら意見交換をするという会を開いた時に大きな批判が集まりました。ところが、パンケーキの会に参加した記者たちは「首相の行動をすべて把握するのが記者の役割なので参加するのが当たり前だ」と言います。相互に緊張感を欠いた関係になっているのでは、と疑う感覚すらないようです。
しかし、パンケーキの会で出た菅首相のコメントを発表することよりも大切なことは、現在の内閣に不正がないか、そして、実際に何が行われているのかを長期的な視野から検証することですよね。ところが、記者の人にこの点について質問すると、実売数の減少でスクープを取ったり、調査報道的なことをやる予算や時間がもう新聞社にはないと言い訳されました 。
起きている出来事の検証や不正を暴くということよりも、発表された事実を間違いなく流すということに力を注いでいる印象です。劇中で近現代史研究家の辻田真佐憲さんが解説していますが、その姿は戦前の「大本営発表」をしていた時代に近いのではないかと。
――「スポンサーなどのしがらみなく事実を追って書きたいので、大手の新聞記者ではなく、赤旗の記者になった。そのためにハードルはあったが共産党員になった」と語る赤旗の記者が登場します。
内山:ある意味純粋ですよね。「そういう人もいる」ということを伝えたくてあのシーンは入れました。多くの人から好感が持てたと評判がいいです。
――「安倍さんのために命を捧げる官僚はいるけれども、菅さんのために命を捧げる官僚はいない」と菅首相についての著作のある作家の森功さんは語っていました。
内山:森さんは有名になる前から菅首相に注目していて、故小此木彦三郎議員の秘書時代や横浜市議会議員時代からの周辺取材をまとめた『総理の影: 菅義偉の正体』(小学館) を2016年8月の段階で出版しています。菅首相が安倍政権の官房長官在任中のことです。
森さんは首相になってから菅さんは変わったと言っていました。かつての勢いがないと。安倍さんの右腕として政権運営を上手くハンドリングしている方が合っていたのかもしれません。それこそ人事を握って各所に圧力を掛けててでも、安倍さんのやりたいこと、目指す方向性のことを実現して行けば彼自身の手柄も増えて評価もされます。
ところが、トップになった途端、自分がやるべきことが見えないので、メッセージも発信できないというのが実情なのではと語っていました。
新聞記者を招いてパンケーキを食べる会
菅さんのために命を捧げる官僚はいない
ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。
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