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「金融緩和を維持するための政策」に抱く懸念/倉山満

15年間、無為無策のデフレ放置を続けた日銀と財務省

 リフレ派は’98年からの15年間、無為無策のデフレ放置を続ける日銀と財務省に対し批判を続け、遂には安倍内閣のアベノミクスの理論的支柱となった。この間、岩田教授らリフレ派は、一貫して正しいことを言い続けた。  アベノミクスの中核は金融緩和で、リフレ派の言う通りにやって劇的な景気回復の軌道に入った。ところが、リフレ派の警告を無視して消費増税を行い、景気回復は急失速。増税延期と追加緩和で回復軌道に戻ったが、当初の劇的な勢いは戻らず、緩やかな景気回復でしかなかった。  それでも、10年も金融緩和を続けてきたので、デフレ脱却まであと少しまで来た。最近の物価高はウクライナ事変によるコストプッシュインフレだ。資源国と農業国が大規模な殺し合いをしている。輸出が滞り、世界的にコストが高くなるのは当然だ。モノの値段は上がる。景気が良くなり人々の給料が上がる健全なインフレではないが、生き地獄のデフレよりはマシだ。

応急処置としての「マイナス金利」と「YCC」

 アベノミクス10年、最強官庁の財務省が減税を許さないので弥縫策(びほうさく)を続けるしかなかった。それがマイナス金利とYCCだ。マイナス金利とは、市中銀行が日銀に預けている預金の利子をマイナスにすること。銀行が財産を貯めこんでいれば目減りするようにする。そうやって銀行が企業や個人にお金を貸すのを促す。  YCCとはイールドカーブコントロールの略。国債の利子を強制的に下げること。利子が高いとお金のやり取りは滞る。利子が高い商品で生活したい人々を俗に「債券村」と呼ぶ。債券村の都合だけを考えていては経済全体が回らないので、強制的に利子を抑え込もうとしていたのだ。

金融緩和を一生続ける訳にはいかないが……

 さて、本年2月。植田和男氏が次期日銀総裁に予定されていると知り、私は警戒感を隠さなかった。岩田・翁論争での所業の他、2月10日の日刊SPA!で詳しく触れたが、過去の言動が信用ならない人物だったからだ。言うなれば「カメレオン」だ。  ただ、国会では「金融緩和を続ける」との所信を披歴したし、総裁就任後も4月と6月の政策決定会合では金融緩和の現状維持を選択した。だから、心を許さないまでも、警戒を緩めて良いとは考えていた。  誰がやっても、いつまでも金融緩和を続ける訳にはいかない。しかし早すぎる解除はデフレに逆戻りさせかねない。手順も至難だ。
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植田総裁は「金融緩和を維持するための政策だ」と強調するが、本当か
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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