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「買い物ができず不便」は的外れな感想…西武池袋本店のストは「注目すべき出来事」だった

「着替えの時間も労働時間にカウントされる」時代に

このところ働き方改革が浸透してきた成果もあり、労働者の権利を見直す風潮が強まっています。例えば、家具小売り大手企業のイケア・ジャパンは、開業から一貫して制服への着替え時間に対して従業員に賃金を支払っていなかったことが毎日新聞の取材で明らかになりました。 イケア・ジャパンのニュースを聞いて、着替えも労働時間にカウントされることに驚いた人もいるでしょう。バイト経験のある人だったら、上司などに「出勤してきたら、制服に着替えてからタイムカードを押せ」「退勤時は、タイムカードを押してから着替えること」と口を酸っぱくして言われたはずです。これは以前だったら問題視されるものではありませんでしたが、着替えの時間も労働時間に含まれるという意識の変化は、それだけ時代が変わっていることを物語っています。

「買い物ができなくなって不便」は的外れな感想?

そして、最近では有給休暇や男性の育児休業取得なども、労働者の権利であると強く意識されるようになっています。そうした社会環境が変化する中でも、ストに対する世間の風当たりはいまだ強いのが実情です。今回の西武池袋本店のスト決行で、「買い物ができなくなって不便」というような街の声を耳にします。 しかし、ストは労働者の権利であり、そもそもストの目的は「不便になることで経営陣に従業員の重要性を認識させること」ですから「買い物ができなくなって不便」というのは少し的外れな感想です。 スト当日の8月31日にセブン&アイホールディングスは臨時取締役会を開き、西武池袋本店を経営するそごう・西武の売却を正式に決定。翌9月1日から、フォートレス&ヨドバシ連合にオーナーが変わりました。 バブル期以降、日本国内で労働運動は下火になり、特にネットでは労働運動や労組は煙たがられる存在になっています。多くの国民は労働者側にいるはずですが、なぜか経営者マインドで労働者叩きを楽しみ、その一方で使用者の不作為や怠慢には寛容です。先の「買い物ができなくなって不便」という街の声も、言うならば従業員に責任を転嫁しているようにも受け取れます。
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社会全体から“労組離れ”が…
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フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーに。首相官邸で実施される首相会見にはフリーランスで唯一のカメラマンとしても参加し、官邸への出入りは10年超。著書に『鉄道がつなぐ昭和100年史』(ビジネス社)、『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)などがある Twitter:@ogawahiro

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