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「“汚くて物乞いする下等民族”の偏見なくしたい」フィリピン水上スラムで暮らす日本人男性の波乱万丈

日本で居場所がない人たちの駆け込み寺

フィリピン 手探りで始めたツアーだったが、参加者の反応を見ながら内容を変化させていった。回数を重ねるにつれてスタイルが確立され、訪れた人から「バジャウで過ごしたおかげで人生が変わった」「ターニングポイントになった」との声が寄せられるようになる。  大夢さんの自宅兼ゲストハウスには、“居場所がない人の駆け込み寺”としての側面も生まれ始めたという。 「日本では“社会不適合者”と呼ばれる人や、“厄介者”扱いされる人も来るようになった。そんな人たちでもウェルカムって受け入れていたよ。バジャウ族は普段から差別されているから、弱い者の気持ちを知っていて、優しいんだ。俺自身あんまり人を嫌ったりしないしね。それに居場所がない人を否定して断ったら、その人たちが生きていける場所が本当になくなっちゃうから」
ゲストハウス

観光客向けのゲストハウスも運営

 メディアにも取り上げられ順調だったバジャウ族ツアーだが、コロナ禍のロックダウンで開催できなくなってしまう。さらに2021年12月、台風22号「ライ」(フィリピン名:オデット)により村や自宅が壊滅状態となり、大夢さんは村の復興に奔走した。

コロナ禍でツアーを休止するも、この夏から再開

台風により全壊した自宅

台風により全壊した自宅

「村の復興作業を終わらせてから、『今がタイミングだ』って思って2年半ぶりに日本へ行ったんだ。そのあとはタイのチェンマイでムエタイやマッサージ修行をして、資格を取ってまた日本に戻ってきた。そのあとは目的なく過ごしていたけど、やっと先の展望が見えてきたから、バジャウ族ツアーを再開することに決めたよ」  現地のバジャウ族の友人からの近況報告を聞き、「今ならツアーができる」と踏んだそう。今までは大夢さん本人が参加者を案内して回る形だったが、今後は違う方法を考えているという。 フィリピン「現地の友達のツアー会社と提携して、俺の代わりにアテンドしてもらうことになった。俺はリモートでツアーをマネージメントするつもり。今までは一人ひとりのリクエストに合わせて、連れていく場所を変えたり、市場に買い出しに行ったり準備していたんだよ。それを臨機応変にできる人が、俺以外にいなかったから。でも、社会事業として成り立つように、俺がいなくても開催できるようにしようと思う」  バジャウ族の中で暮らすことで、たくさんの経験を得た大夢さん。今後は日本を拠点に活動していくつもりだと語る。 「俺がバジャウでやってきたことを、次は日本でもやろうと思ってさ。僻地の土地を探して、古民家を改装して、まずは日本での半自給自足の暮らしをゼロから整える。俺が20歳くらいの頃に、誰からも注目されていなかったバジャウ族の村にたどり着いて、ゼロから拠点を構えて、その土地や人や暮らしの魅力を発信して、輪を広げていったように。“人間が本来の人間らしく還れる”ような、豊かな暮らしの輪を広げていこうと思っているよ。生きる目的の軸は変わらずに、これからもより多くの人に“BE HAPPY”を届けていくつもり」  自由な感性で高みを目指す、「BE HAPPY, BE HIGHER」な大夢さんの人生。第二章の幕は上がったばかりだ。 <取材・文/倉本菜生>
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0
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