広がるバンドマンたちの復興支援の輪
この日、東京・渋谷のライブハウス「スターラウンジ」は、約300人の観客で超満員だった。フロアでは“モッシュ&ダイブ”が繰り返され、梅雨入りが発表された東京の湿った空気を、熱気に昇華していく。ステージ上でMCが叫ぶ。「被災地にライブハウスをつくろう!」。それに歓声で呼応する観客たち。こうして震災支援チャリティーイベント「烏合の衆~東北援護射撃大作戦~」は始まった。
「今日の出演バンドのメンバーたちは、ほとんどがバンド以外の仕事をして、家族も抱えている。なかなか時間もとれないけど、皆なにか(支援を)やりたいと思っていた。だから『東北ライブハウス大作戦』というきっかけを知って、『皆でなにかをしよう』と動き出したんです」
ステージを眺めながらそう話すのは、この「烏合の衆」を主宰するSHON氏(45歳)だ。彼はこのイベントを、「『東北ライブハウス大作戦』というプロジェクトの援護射撃なんです」と紹介する。では、その「東北ライブハウス大作戦」とは何なのか。
「僕の友人でもあり、ライブPAチーム『SPC』代表の西片明人くんが進める、被災地支援プロジェクトです。読んで字の通り、被災地にライブハウスを作ることを目的に活動を行っています。実際に岩手県宮古市、大船渡市、石巻市の3か所で物件を決め、現在はオープンにむけて動き出している。僕らはそんな活動を知り、『じゃあ俺らにできることは何かな』と思った時に、やっぱりライブをやって、収益が出たらそれを預けることだった。そこで今回、賛同してくれる仲間を集めたんです」
SHON氏は約10年前、ニューロティカというバンドに在籍していた(ニューロティカは今も活動中だが氏は脱退)。バンドブーム時には氏も「その恩恵を受けて、全国のライブハウスを隅々までまわった」という。そんな経験から、「被災地でもライブハウスは必要だという、西片くんの意見に賛同した」
「僕らは皆、ずっとライブハウスにお世話になってきたんです。ライブハウスで誰かと出会って、友達をつくって、今日こうして集まった連中もそうやって繋がった仲間。なのに、被災地にはそれがひとつもない。それは悲しいねって……。確かに、生活するのすら苦しいなかで『なんでライブハウスなんだ』って意見があるのは当然だと思います。けど、被災地の人たちからそういった機会をなくしちゃうというのは、残念だし、理不尽な気がするんですよ。若者が元気になって、そこから新しいバンドが生まれて、そのバンドがまた誰かを元気にさせる。そういうのが理想だし、単純に選択肢を作ってあげたいんです」
◆被災地と同時に、ライブハウスも盛り上げる
SHON氏と同様に、「東北ライブハウス大作戦」に呼応する“仲間”は増えている。この日のイベントでは、北海道のバンド「SLANG」のKO氏が中心の「NBC作戦本舗」という別団体が、会場内特設ブースで三陸産のハンドメイドミサンガを販売。さらに、西片氏はHi-STANDARDやBRAHMANといったバンドとも親交が深く、宮城県で9月15・16日に開催される「AIR JAM 2012」にも参戦予定だ。’90年代後半~’00年代前半、パンクシーンを盛り上げたヒーローたちを中心に、支援の輪が広がっていく。また、SHON氏は「これは被災地支援だけが目的ではない」とも続ける。
「震災の後はイベントが中止になったりして、ライブハウスはどこもガラガラ。その後はチャリティーイベントが立て続けに行われたけど、それも今は下火になって、これからライブハウス大丈夫なのかな、バンド大丈夫なのかなって思った。だからこの活動は、シーン全体を盛り上げる意味も持っている。この動きをきっかけに、そこから若い人に次のシーンをつくってほしいんです」
支援の輪と同時に、音楽シーンを盛り上げる繋がりもできていく。「僕らのような連中って、横の繋がりだけはいっぱい持っているからこれを生かさない手はない。『烏合の衆』主催メンバーのBAGIくん(ONE TRACK MIND)やGOくん(JUNIOR)もどんどん広げ、繋げてくれている。そうじゃないとやる意味がないから」(SHON氏)。その言葉通り、この日のイベントでは、彼らのネットワークによって全11組のバンドが登場し、もちろん、全組が無償で出演した。
最高潮を迎えるライブを見つめながら、「いずれは『東北ライブハウス大作戦』が作った被災地のライブハウスで、このイベントをやりたいですね」と話すSHON氏。その時にはきっと、被災地にもこの熱気が生まれていることだろう。
<取材・文/秋山純一郎 撮影/水野嘉之>
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