ライフ

珠玉の名画が楽しめる!「ポーランド映画祭2012」の魅力を徹底取材

ポーランド映画祭2012

とかく「重い」だの「暗い」だのと言われるポーランド映画だが、近年はコミカルでシニカルな味のある作品が多い

 巨匠イエジー・スコリモフスキ監督が厳選したポーランド映画22本を上映するイベント「ポーランド映画祭2012」が開幕した。渋谷のイメージフォーラムを皮切りに、大阪シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館でも開催される。普段は劇場で目にする機会の少ないポーランド映画だが、各国の映画祭で高く評価された、これだけ観ればポーランド映画通!といった代表的な作品が選ばれている。 ◆辛い歴史をバネにした反骨心  しかし、ポーランドという国自体にあまり馴染みのない読者も多いのではないだろうか。まず知っておいてほしいのは、今でこそEUに加盟し、サッカーの大会EURO2012が開催されるなど、勢いのあるポーランドだが、ドイツとロシアという隣の大国に翻弄され、数多くの侵略の中で地図から消えるなど辛い歴史があったということだ。第二次世界大戦後も社会主義国になり、厳しい検閲が行われるなど、映画を作るには最悪の環境である。  しかし、そんな抑圧された状況下で、辛い歴史、戦中・戦後の世代の違い、体制批判をテーマにした多くの映画が作られてきた。ポーランドで一番有名な監督、アンジェイ・ワイダの「灰とダイヤモンド」もそんな映画の一つ。ポーランド労働党書記を、元ゲリラで愛国的な若者が殺そうとするという思いっきり政治的な内容で“いかにもポーランド的”な映画である。テンションガタ落ちになるほどの映画史に残る悲劇的なラストが有名だ。
ポーランド映画祭2012,灰とダイヤモンド

「灰とダイヤモンド」のワンシーン。ラストシーンはある意味、必見!

『灰とダイヤモンド』 【渋谷イメージフォーラム】 12月1日(土)11:00~、5日(水)13:30~  悲しい歴史と圧政で必然的に“重い”作品が多いのだが、ポーランド人特有のユーモアや反骨心のある皮肉も込められている作品も多く、とてもユニークなストーリー展開をするのもポーランド映画の特徴だ。  例えば今回の映画祭で監修を務めるスコリモフスキ監督の作品「バリエラ」は、男が手を縛られる姿を後ろから写した深刻そうなお尻のアップで始まるが、すぐにそれは学生たちがゲームをしているだけだとわかる。政治的な暗喩は込められているものの、あらすじは学生の主人公がナンパした路面電車の運転手とのロマンス。三輪車をこいで暗闇に消えていくじいさんなど、狂った夢を見ているようなぶっ飛んだ映像が印象的で面白い。
ポーランド映画祭2012,バリエラ

優れた映像美で観客を魅了する「バリエラ」もぜひ見ておきたい一作だ。

『バリエラ』 【渋谷イメージフォーラム】 12月3日(月)19:00~、4日(火)11:00~ ◆多くの映画作家を育てた学校とは?  政治的な圧力を受けながらも多くの映画人を排出していった背景にはウッチ映画大学という学校の存在がある。現在では世界中の映画作家の卵が入学しており、監督科には日本人も一人在籍している。いわゆる映画界の名門校なのだ。筆者も一度訪れたことがあるが、厳しいカリキュラムやプロ顔負けの設備など、まるで特殊部隊の訓練所である。  アカデミー賞監督賞を受賞したロマン・ポランスキーもウッチ映画大学の卒業生の一人だ。学校のトイレには「ここでポランスキーが小便をした」と落書きされているという都市伝説があるといわれている。そんなポランスキーの代表作で今回の映画祭で上映されるのが、「水の中のナイフ」。歳の離れた夫婦の乗ったボートにナイフを持ったイケメン青年が「あいのり」。美人な奥さんを巡って、旦那とイケメンが険悪な雰囲気になってきて……というサスペンス仕立ての内容だ。
ポーランド映画祭2012,水の中のナイフ

心理描写、ストーリー展開など、見る者を釘付けにする仕上がりとなった「水の中のナイフ」。筆者イチ押しでである

『水の中のナイフ』 【渋谷イメージフォーラム】 12月4日(火)13:30~、6日(木)18:30~ ◆共通点は一つだけ?個性的な作品群  映画祭に集められた作品はどれも個性的だ。スコリモフスキ監督にポーランド映画の特徴を尋ねたところ、こう答えてくれた。 「特徴は……台詞がポーランド語なこと(笑)。それぞれ全く違う味があるので一言で言い表すのはむずかしいね」  今回上映される中にも、ナポレオン戦争時代のスペインを舞台にした「サラゴサの写本」、ドイツに向かう豪華客船上で大戦中の強制収容所を思い返す「パサジェルカ」など、様々な時代設定やロケーションの作品がある。ひとくくりに出来ない幅の広さ、作家の個性もポーランド映画の魅力だ。 「私たちが日本映画を観て新鮮に感じるように、皆さんからはポーランド映画はエキゾチックに見えるかもしれません。イマジネーションに訴える作品が多いので、どのように感じるかは受け取る人によって違うと思いますよ」(駐日ポーランド大使)  広く流通しているハリウッド映画などと比べて、普段は劇場で目にする機会の少ないポーランド映画。実際どのように感じるか、ぜひ映画祭に足を運んで確かめてほしい。また美人な女優が多いということも筆者は強く訴えたい! 【ポーランド映画祭2012】 <上映作品> ・灰とダイヤモンド ・水の中のナイフ ・バリエラ ・エロイカ ・地下水道 ・パサジェルカ ・鉄路の男 ・その他多数上映 <劇場情報> 東京/イメージフォーラムで12月7日まで 大阪/シネ•ヌーヴォで12月1日から 京都/みなみ会館で1月5日より ※詳しい上映スケジュールや劇場情報は「ポーランド映画祭2012」公式ホームページをご覧ください。 http://www.polandfilmfes2012.com <取材・文/林バウツキ泰人 取材協力 VALERIA>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
おすすめ記事