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犬山紙子が語る「素人がネットで見出される技術」

犬山紙子

エッセイスト・犬山紙子

週刊SPA!で連載中のコラム「痛男!」でおなじみのエッセイスト・犬山紙子。’11年に『負け美女』(マガジンハウス)で鮮烈デビュー後、今や女性誌のコメンテーターとしても引っ張りだこ、TBS『内村とザワつく夜』のレギュラー出演をはじめ、テレビやラジオでも広く活躍する彼女だが、ほんの数年前までは名もなきブロガー女子であった。彼女はいかにして世に出たのか……? 意外と知られていない、その足跡をたどる。 ――犬山さんの、表現活動のスタート地点はどこだったんですか? 犬山「大学を出てから、仙台ローカルのファッションカルチャーマガジン編集部にいたんですよ。でも、取材する側になったり、裏方に回ったりするには自己顕示欲が強すぎて(苦笑)。ところどころに自分テイストを入れすぎたり、編集長のOKも出ていないのに勝手に企画を進めてページを作ったりして、よく怒られてました」 ――アグレッシブですねえ! 犬山「そんなある日、漫画家の滝沢麻耶さん(現・鹿島麻耶)を取材する機会があって、『子供のころ漫画家に憧れてた私』を思い出したんですよね。で、仕事を辞めて漫画を描き始めたというわけです。オリジナルの漫画を同人誌即売会で売ってね。当時、ブログもやってたんですけど、表現活動としてではなかった。好きな男が読んでるかもしれねーなという前提で、アピールの場に使うくらいでしたね」 ――犬山さんのデビュー作『負け美女』は、ブログの内容をまとめたものですが、いつからあの形に? 犬山「友人のイラストレーターに、本当に漫画をやりたいならブログでやってみれば?という助言を受けたんです。そこから『イラスト+文』という形になり、人に見られることを意識して書きはじめました。最初書いていたのは『自分が子供のころ誘拐されかけた話』とか。そこにちゃんと考察があれば面白いものになったのかもしれないけど、いかんせん力不足でしたね……。アクセス数も全然伸びなくて、あら?って」 ――そんな状況に変化が起きたのは? 犬山「ある日、自分のことではなく、女友達の変な恋愛話を客観的に見つつ自虐を織り交ぜて書いたら、ちょっとアクセス数が伸びて。以後は、なんとなく意識して人の恋愛がらみの話に自分の意見を混ぜるというスタンスで書くようにしていたんですが、とあるイベントでクラブに行ったときに、ナンパしてるヘンな男を発見して、そいつをつけ回して観察したことを書いたら、やっとツイッターでバズったんですよ(このエピソードは『負け美女』にも収録されている)。それも、そのイベントに参加してた人たちが『そんなことあったんだー』みたいな感じで。そのクラブは文系の人が多くて、みんなツイッターをすごいやってるタイプだったんですよね。その相乗効果もありまして」 ――バズる条件にうまいことハマったと。 犬山「はい。自分でバズりやすいネタを考えて……っていうのはなかなか難しいんですよ。なので、バズったときについたフォロワーさんをなんとか捕まえておかなきゃと思って更新頻度を上げたんです。それまで数日に1回だったのを、毎日更新して、私のブログを日々見るという習慣をつけてもらえるように。その積み重ねで、ちょこちょこRTしてもらえるようになりましたね」 ――ツイッターでウケた理由はなんだったと思います? 犬山「まず、こういうブログがまだ目新しかったこと。あとツイッターやってる人って、名もない女の子がちょっと面白げなことを書いているのを応援するのがすごく好きなんですよ。私もそうですし。ただ、そういう人たちは、本を出すとサッといなくなるんですけど。今の私がブログを更新しても全然RTしてもらえない(苦笑)。あと、当時はツイッターで、『自虐』というムーブメントがこれからどんどん面白くなっていきそうだぞ、という時期で。その流行にも無意識に乗っていたんだと思います。もっとも今、『自虐ブーム』は終わりに向かっていますが」 ――犬山さんが、これから世に出ようとする女子だったら、どんな手段を取ると思いますか? 犬山「インスタグラムですね。ちょっと前のSNS……という印象を持っている人も多いと思うんですけど、今都会の女性の間で時ならぬブームになっていて。インスタアイドルと呼ばれるカリスマもどんどん出ていて、ツイッターでは全然フォロワーがいない人が、インスタだと何万人もいるなんてザラなんですよ」 ――彼女たちは、インスタグラムで何を表現しているんでしょう? 犬山「セルフィー、つまり自撮りで自分のファッションを披露するんです。ツイッターに自撮りを上げても失笑を買うことが多いですが、センスのいい子がインスタで自撮りを上げると、あっという間にファッションリーダーに。インスタグラムには海外の女の子たちが大勢参加していて、彼女たちは自撮りが恥ずかしいなんてこれっぽっちも思っていないので、こっちもそれに影響されていくんですよね。私も含め、『えー、自撮り?』とか言ってた友人たちがどんどんハマっていってます。かつてツイッターですごくはやった自虐芸がすたれて、間逆の“盛る”方向に来ているという流れも面白いですよね」 ――世が世なら犬山さんは「エッセイスト」ではなかったかもしれないと。 犬山「インスタの方の才能があるかどうかはわかりませんが(笑)。仕事とか関係なく、何かおもしろそうなことに乗ろうとしているだけ……とも言えますね」 ――テレビでは「コメンテーター」という役割にもすんなりなじんでますよね。犬山さんといえば、作家さんらしからぬコミュ力の高さでも有名ですが、秘訣はどこにあるんでしょう? 犬山「秘訣……と言えるほどのものはないんですが、父がコミュ力の高い人なので、その影響はあるかもしれません。父は会社の専務をやっているんですが、社内では『営業の鬼』と呼ばれているらしくて。ちなみに『社長の娘』と間違われることが多いんですが、社長は私の叔父ですね。それはさておき、私に対しても父はことあるごとに『こういうときはこういうふうに話すといい』みたいなことを言うんですよ。『必殺フレーズ』みたいなものではないんですが、『弱者になりすぎることなく、相手を敬うスタンス』を父から学んだ気がしますね。意識してないととことん下手にでちゃって消費されるだけされて捨てられるか、または天狗になって嫌われ結果仕事がなくなる、なんて可能性が非常に強い職業なだけに、仕事をしていく上でかなり意識するようにはしています」 ――今の仕事についても、アドバイスを受けたり? 犬山「実は、この仕事は父には内緒で始めたんです。ペンネームだし、本を出してもバレないだろうって。というのも、私は実家ではとてもイイ子で、恋愛話なんて興味ないみたいな顔をしてるので、仕事について知られるのは日記を見られるような恥ずかしさがあったんですね。さすがに、本が出て数ヶ月たったくらいで『お父さん、私、本を書いたりテレビ出たりする仕事始めたんだ』ってカミングアウトしたんですが、それだけ。レギュラー雑誌や番組の名前も教えてません」 ――もしかしたら、ネットで検索とかなさっているのでは……。 犬山「かもしれませんね。そうだとしても、知っていることを黙っていてくれるので、私も『実家での私』を保てるんです。それも、父の家族に対するコミュ力なんだと思います。でも、先日初めて仕事で父に褒められたんですよ。小保方晴子さんの一件で朝日新聞にコメントしたんですけど、『合格点だったよ』って。それがすごく嬉しくて、心の底では父に認めてもらいたかったんだなあと思いましたね」 【犬山紙子氏】 ’81年生まれ。エッセイスト。『負け美女』(マガジンハウス)で作家デビュー、女性観察の名手として注目を浴びる。著書に『高学歴男はなぜモテないのか』(扶桑社新書)、『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(瀧波ユカリ氏との共著/筑摩書房)ほか。週刊SPA!でコラム「痛男!」を好評連載中 <取材・文/日刊SPA!編集部>
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