元ゴーストライター新垣隆「私の簡単な“指示書”で…」新アルバムができた!?
他の追随を許さない「ゴーストのなかのゴースト」として、すっかり認知された感のある音楽家の新垣隆氏。SPA!の新年号では書初めに挑戦する(https://nikkan-spa.jp/777427)など、今やテレビに雑誌に引っ張りだこなのはご存じのとおり。佐村河内守氏は実は耳が聞こえていた節がある、と暴露した笑撃の会見から1年(※会見は’14年2月6日)、そんな売れっ子ゴーストライターがついにオリジナルアルバムを発表した。
2月11日に発売されたアルバムのタイトルは『N/Y』。新垣氏の「N」と、タッグを組んだバリトンサックス奏者・吉田隆一氏の「Y」をタイトルにした格好だ。2月8日には、四ツ谷の老舗ジャズ喫茶「いーぐる」で、ミニライブを開催。そのライブでは、意外な事実も浮き彫りになった。
今回のアルバムのプロデューサーを務めた音楽評論家の村井康司・尚美学園大学講師がこう話したのだ。
「私が3か月にいっぺん、荻窪の『ベルベットサン』というところで吉田さんたちとトークライブを開いて、そこに新垣さんをお誘いしたのがきっかけでした。その当時の吉田さんは髪が長くて、サングラスをしてたんです。なんか、誰かに似てるな……これはマズイかなぁと思ったんですけど、新垣さんは快く参加されてくれて、おまけにサングラスをかけた吉田さんと“和解の握手”までしてれたんです。それがきっかけで、新垣さんと吉田さんの付き合いが始まり、今回のアルバムに繋がった格好です」
ミニライブに臨んだ新垣氏が、思わぬ本音を漏らす場面も。
「私にとっては新たなジャンル、ジャズという領域ですごく優秀なアーティストと一緒にできたことは本当にありがたいこと。だからといって、“例の彼”に感謝するというわけではないんですけど……いや、感謝しないといけないかもしれません……」
つまり、今回のアルバムのきっかけを作ったのは、まぎれもなく佐村河内氏だったというわけ。実際、アルバムのジャケットには“オマージュ”が込められている節も。ジャケットには、サングラスをかけた新垣氏と吉田氏が映っているのだが、「撮影の際に、私がこっそりサングラスを持ち込んで、『サングラスをかけたバージョンも撮っておきましょうよ』と提案させてもらった」(村井氏)というのだ。
ただし、アルバムの中身は、これまでの“ゴースト作”とはまったく別物。現代音楽とジャズとが見事に融合している。
レコーディング期間はたったの1日。アルバムには計5曲の共作が収録されているのだが、いずれも簡単な譜面を共有しただけで、レコーディング現場では“即興”で演奏したとも。なかでも、ユニークなのは新垣氏が作曲した「秋刀魚」という曲だ。なんともミステリアスで新垣氏のピアノと吉田氏のバリトンサックスが、後を引く一曲なのだが、どう考えてもタイトルとは不釣り合い。
なぜ、このようなタイトルが付けられたのか? 吉田氏は次のように解説してくれた。
「タイトルを何にしようかと相談しているときに、新垣さんに聞いてみると『すいません、今は秋刀魚のことしか頭にないんです』って言うんです。とにかく、秋刀魚が食べたくてしょうがなかったんでしょうね(笑)。けど、その秋刀魚というあまりにも現代音楽に似つかわしくない言葉が新鮮で、吉田さんも『これでいこう!』となりましてね。一見、敷居の高い現代音楽に多くの人が興味を持ってもらえるかも……という点も含めて、いい作品になったと思います」
とはいえ、やはり引っかかるのは、稀代のゴーストライターによる作品という点。今回の『N/Y』をつくるにあたって、ゴーストライターを使ってないと断言できるのか? 確認してみた。
「いや……そのへんはくわしくは話せないんですが……。正直にいえば、私の簡単な“指示書”で、吉田さんに即興で演奏してもらったので、吉田さんが私のゴーストといえるかもしれません(笑)」
吉田氏も「逆に言えば、僕のゴーストはニイさん(新垣氏のこと)ですね(笑)」と回答。ゴースト騒動をネタにしつつ、見事にゴースト作品を超える新譜を踏み出した2人だったのだ。 <取材・文・撮影/池垣完(本誌)>
『N/Y』 いま最も注目の音楽家、新垣隆とジャズ界きっての異才吉田隆一がコンビを組 んだ記念すべきアルバム |
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