更新日:2016年02月18日 17:12
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音楽配信サービスの「有料化」は“悪”なのか?――「無料期間」が成り立っているワケ

「AWA」「LINE MUSIC」「Apple Music」といった大型のサブスクリプション型(定額制)音楽配信サービスが登場し、日本における“サブスクリプション元年”とも言われる今年2015年。 「AWA」と「Apple Music」が各ユーザーにサービス利用開始日から3カ月間の無料試用期間を提供しているなか、「LINE MUSIC」では8月9日いっぱいをもって全ユーザーの無料期間が終了し、有料プランがはじまることとなった。  これにともない、一部のSNSユーザーからは「ケチ」「使えない」「無料じゃないんだったらいらない」といった声が噴出。上記3サービスとも“使い放題”のプランは月額1000円程度であり決して高いわけではないが、音楽を無料で聴くのが当たり前のようになっている世代にとっては、お金をとること自体が「ケチ」なことなのかもしれない。  今後「AWA」と「Apple Music」でも徐々に有料プランが提供されていくにあたり、これら日本の定額制音楽サービスはしっかりと“お金を払う”ユーザーを確保していけるのか。正念場といえそうだ。  さて、「無料じゃないならいらない」という意見をもつユーザーが出てしまうのは、そもそもこれらサービスが「どのようなお金の流れの仕組みで成り立っているのか」ということがほとんど知られていないという背景があるのが理由ではないだろうか。  そこで、「AWA(アワ)」を提供するAWA株式会社のプロデューサー、中出恵利花さんに話を聞いてみた。
AWA株式会社のプロデューサー、中出恵利花さん

AWA株式会社のプロデューサー、中出恵利花さん

――「AWA」では、3カ月という長期間、ユーザーに無料トライアル期間を提供されていますね。 中出:はい。サービスは2015年の5月27日に開始したので、現時点ではみなさん無料でご利用いただいていますが、いち早く利用し始められたユーザーの方は、8月末頃より、それぞれのタイミングで有料プランがスタートすることになります。ただ、このトライアル期間は今後も継続していくので、まだ利用されていない方であれば、“今日”サービスを開始していただければ3か月間は無料でご使用いただけるようになっています ――その無料期間である3カ月間にユーザーが楽曲を再生した場合、アーティストへの還元の仕組みはどうなってるんですか? 中出:端的にお伝えすると、我々がその費用を担っています。もう少し細かくお伝えすると、無料期間分の再生については、1再生当たりの固定の金額をレーベルや著作権管理団体にお支払いします。アーティストの方々にはそこから還元されるという形になっています。  つまり、ユーザーにとって無料(の期間)だからといって、音楽自体が無料で提供されているわけではないということである。では、有料プランになった後はどうなるのだろうか。 ――有料プランが始まると、還元の形は変わるのでしょうか? 中出:有料プランによって生じる収益に応じて一定の割合をレーベルや著作権管理団体にお支払いします。レーベル全体へ支払う総額の割合は常に固定となっており、レーベルごとへの支払は、再生回数のシェアに応じて変動します ――有料会員が増えれば、それだけ収益は大きくなると思います。この2015年、大手企業が続々とサブスクリプションに参入したことで、一般消費者には「サービスを提供する会社は凄く儲かるのでは?」という考えをもつ人が少なくありませんが、その点についてはどうですか? 中出:3か月間という無料期間の楽曲使用料や著作権使用料など、サービス立ち上げには大きな投資が必要になる事業です。収益の割合や具体的な数字について詳細をお伝えすることは難しいのですが、数年かけて音楽市場全体を盛り上げることで、結果的にビジネスとして成功していければと考えています。大手の参入時期がかさなったことについては、スマートフォンでのインターネット通信環境や国内外の音楽市場の変化を受けて、単純に今が“参入すべき”タイミングであったからだと思います ――無料期間の3か月間は赤字になるわけですし、ビジネスとしても競争が激しく成功のハードルが高いように感じますが、それでもやっていこうという、そのモチベーションは何ですか? 中出:日本の音楽市場は縮小傾向にあり、「CDが売れない」と言われる昨今ですが、そもそも音楽自体は人々の生活に絶対に必要なものです。音楽体験のない人生なんて考えられないという人が大半ではないでしょうか。今年、奇しくもAWA・LINE MUSIC・Apple Musicのリリース時期がかさなったことで、音楽業界は急激に注目を集めることになりました。この盛り上がりを継続させ、ストリーミングという新たな形で、人々が新しく音楽と出会ったり“再会”したりする素晴らしい体験を世の中に広めることで、もっと音楽を聴く時間や聴く人を増やしていきたいと思っています。まずは、他サービス含め業界全体で切磋琢磨しながら、数年かけて“サブスクリプション型音楽配信サービス”というビジネスモデルを成立させる。それがいちばんのモチベーションです。 「AWA」では8月中にも、楽曲の“オフライン再生”機能を取り入れるという。曲のストリーミング再生にかかる通信量を緩和するためとのことだが、ほんの数年前まで、「音楽とネット通信量」の関係を気にする人なんていなかったはずだ。  まさに、音楽体験の仕方が大きく変化しようとしている真っ只中というわけだが、「音楽は無料である」という考え方が根付いてしまうと、音楽の創作サイクルが壊れかねない。はたして定額制音楽配信サービスは、音楽業界にとって救世主となれるのだろうか。<取材・文/宇佐美連三>
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