「ただし、イケメンに限る」は嘘、と書いた文章がネットで燃えた理由【鴻上尚史】
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
◆「ただし、イケメンに限る」は嘘、と書いた文章がネットで大層、燃えた理由
もちろん、美男美女は、それだけで商品価値があります。まったく演技力がないのに、ただ「美しい」というだけで、長い間、俳優を続けている人は実際にいます。びっくりするほど大根なのに、(男女問わず)その美しさゆえに、けっこう人気があったりします。ファンになったり、愛でたりするには、「美しさ」が重要な条件です。
ただし、一人の人間として、好きになったり、交際を考えたりした時は、「ただしイケメンに限る」は、嘘なんじゃないかと僕は思っています。という昔書いた文章を、この連載の新刊の宣伝を兼ねて、ネットに公開しました。
予想通りというか、ものすごい反発が、一部、男達から返ってきました。女性達は、「完全に同意します」とか「男の人が言ってくれて嬉しい」とか「共感します」と返ってきました。
一部の男達は、「嘘つくな!」「お前だけだ!」「ブサメンでモテると言うのか!」と、強烈に反発しました。
もともと僕が、このことを考えるようになったのは、テレビのシナリオを書くために、いろんな子供達に「好みのタイプ」を聞いたことが始まりでした。女の子は、幼稚園、小学校、中学校、高校と成長するにしたがって、「かっこいい人」「面白い人」「頼りがいのある人」「楽しい人」とさまざまに変わっていくのに、男の子は、見事に、小さい時から高校生まで、ずっと「かわいい子」だけでした。どんなに成長しようが、とにかく好みの相手は「かわいい子」だったのです。
つまりは、外見に強烈にとらわれているのは男であって、男は、自分達がそうだから女もそうだろうと決めつけて、「ただし、イケメンに限る」と自虐的に言っている、と思ったのです。
「『ただし、イケメンに限る』ということが嘘だということは、可能性があるというか希望なんです。だって、外見は変えられませんが、内面は変えられるのですから」と、あんまり反発が強かったので書いたら、「外見は整形手術で簡単に変えられる。だが、内面の深い部分は絶対に変えられない」という、よく分からない激しい反発がたくさんきました。
◆「モテないのは外見のせい!」と信じたい男達
なんだか、信者の信仰を砕いた異教徒に対する憎しみと混乱のようだと、感じました。
「今まで自分がモテなかったのは、外見のためなんだ。だから、自分はどんなに努力しても意味はないんだ」と納得していたのに、突然「外見は関係ないんです」と言い出した異教徒がいて「じゃあなにか、俺がモテないのは、外見じゃなくて、内面がダメだからか。性格とか経済力とか能力とかがダメなのか。そんなバカな。俺がモテないのは、ただただ、外見が悪いからなんだ!」と、強硬に信仰を守ろうとする人々がいる、という構図です。
もちろん、少数の女性に、「基本的にイケメンに限る。その中から、好みの男を選ぶ」という勝ち組の人達がいるのは事実です。
僕が、昔、好きになった女性は「自分がじつは美人だって気づいたの。そしたら、こんなイケメンが、私のことを好きになってくれるって分かったの」と、片思いしている僕の前でいけしゃあしゃあと語りました。それでも、殺意でなく切ない愛情が溢れるのが、惚れてる弱みですが、ほとんどの女性は、惚れた相手が自分にとってのイケメンになると断言します。
「ただしイケメンに限る」と本気で思っているのは、じつはとても愚かな女です。その愚かさは、外見だけにこだわって、内面を見ない男の愚かさと対応します。
僕が書いた文章の本当の恐ろしさは、「じゃあ、ずっと『かわいい子』としか言わない男を好きになる女はどうなるのよ」なのです。その厳しさに比べたら、「モテないのは外見のせいなんだ!」と騒いでいる男達はじつに平和です。で、女性には、「大丈夫。雰囲気美人になればいいのです」と答えます。これは慰めではありません。詳しい話は、また、別の時に。
※「ドン・キホーテのピアス」は週刊SPA!にて好評連載中
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