谷繁元信選手兼監督が考える「中間管理職」の生き方
―[俺の職場に天才はいらない]―
週刊SPA!連載<俺の職場に天才はいらない!>
谷繁元信選手兼任監督の管理職的独り言
◆部下と一緒になって仕事をするなら自分の立場を明確に!
5月26日のソフトバンク戦で左ふとももの裏を痛めてしまい、大事を取って数試合休んだオレは、6月1日のライオンズ戦で「代打オレ」を告げてグラウンドに帰ってきた。
ところがオレのバントはピッチャー前に転がってしまってセカンド封殺。監督のオレが1点負けてる終盤にバント失敗だよ。しかし勝負ってわからないもんで、2死1塁から四球3つにヒット、2塁打で6対4と逆転したんだ。相手のミスで、勝ちが拾えたわけだ。
兼任監督というのは一軍登録メンバーである以上は自分に対して戦力か否かの評価を下さなきゃならないし、ほかの選手と一緒になって“選手”として汗をかく存在だ。そして、一方で監督としてはドンと構えて選手に仕事を任せるという役回りもこなさなければならない。現在のプロ野球界で兼任監督はオレだけなんだけど、実は一般の社会ではオレみたいな中間管理職的な立場のサラリーマンの方ってたくさんいると思う。「自分でやったほうが早いのにな」と思いながらも、いかに部下に任せるかってことで頭を悩ませたりする人って多いでしょ?
一緒になって仕事をやることは大切だし、素晴らしいことだけど、指揮系統や責任の所在が曖昧になる危険もある。監督(上司)としての線引きや立場が明確にできていないと実は現場は混乱することってある。上司(監督)がドーンと構えることで選手(部下)たちには「お前らを信頼してるぞ!」ってアピールにもなるし、「監督(上司)が慌ててないってことは、まだまだ本当のピンチじゃないんだ」という安心感をベンチ(職場)に与えることにもなる。もちろん、伝えるべきことは言葉で直接伝えるけど、チームの雰囲気や方向性をつくるのは言葉だけじゃ無理なこともある。
試合前はもちろん試合に備えるためにアップするから、部下である選手たちと一緒にやることが多い。やっぱりオレが選手である以上、結果が出ない、結果を出そうとしても出なくて焦っているのが選手たちに伝わってしまうこともある。ましては自分も同じ立場がある。今回も1点負けてるゲーム終盤で、自分で送りバントを失敗して改めて思ったよ。「やらせるだけ」だったら、どれだけ楽だろうってね。
だって管理職ができることと言ったらお願いして祈ってるだけでしょ(笑)。もちろんお膳立てはするし、例えばランナーが出ました、セカンドに送りました、あとは後続の打者が打ってくれることを願うのが監督の仕事。この場合、流れを切らないように、間違えないようにゲームを進めるのは監督の仕事だ。でも、現場でプレーしているのは選手でしょ。チャンスで打席が回ってきた選手が背負い込むプレッシャーは軽くはない。同じ気持ちを感じたことがあったとしても、その重圧を分かち合うことはできないじゃない。だったら、監督としてできるのは部下(選手)が気持ちよく仕事ができる環境をつくることだと。
だからオレは兼任監督になってから、「男は黙って、背中で引っ張る」みたいになればいいんだけどなぁって思ったりもした。でも、まぁ、自分が送りバントを失敗しているようでは、まだまだだね(苦笑)。
<今週の谷繁論>
あたふたせずにドンと構えることも部下と一緒に仕事をすることじゃないか
※週刊SPA!6/17発売号の連載コラムでは「ピンチをチャンスにかえるプロに必要な逆転の発想力」について語っている
【谷繁元信】
’70年、広島県生まれ。昨秋、日本プロ野球界では7年ぶりの選手兼任監督としてドラゴンズの監督に就任。野村克也氏が持つ出場試合記録更新の期待もかかる
撮影/Toshitaka Horiba 渡辺秀之 構成/小島克典
―[俺の職場に天才はいらない]―
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