サンマ不漁と中国・台湾の乱獲は関係ない!? 国際資源の管理と日本漁業の問題点とは
秋の楽しみといえば、脂の乗ったサンマとビール……。しかし、今年はサンマの不漁が深刻で漁獲量は昨年の半分以下。このままでは食卓から消えるのではという憶測も広まった。しかし、実際に獲れなくなっている魚はサンマに限ったことではない。水産資源が豊富なイメージの日本だが、それは今や過去のこと。’70~’80年代、日本は世界最大の漁業国で’84年には年間1282万tの水揚げを記録していた。だが、30年後の’14年には479万tとおよそ3分の1にまで減っているのだ。
水産庁は、大まかには「藻場や干潟など魚のエサ場となる場所の減少、食用の需要減退、漁師の高齢化、稚魚の乱獲などの原因が合わさって漁獲量の減少が起きている」と分析。日本の消費者も昔のように魚が獲れないことは知っているが、「地球規模で魚が減っているなら仕方ない」と思っている人もきっと多いだろう。だが、これこそ大きな誤解だ。
下記グラフは国連食糧農業機関(FAO)がまとめた’03~’13年の水産物の漁獲量・生産量だ。グラフに入ってない国も含む調査対象国はいずれも増加、またはほぼ横ばいで推移。これに対して、日本だけが右肩下がりで、ここ10年で22%も減少している。しかし、保護政策や養殖技術の発展で世界的に見れば魚はむしろ増えているのに、なぜ日本だけが減り続けているのだろうか?
⇒【グラフ】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=978736
水産資源問題に詳しい、勝川俊雄・東京海洋大学准教授は次のように指摘する。
「世界の国々は水産資源の保護に取り組んできました。しかし、日本は保護に取り組むポーズを見せるだけで何もしていない。外国の海には魚がたくさんいるのに日本の周辺だけ少ないのは、既得権益ばかりを守ってきた国の政策のツケと言わざるを得ません。つまり、これは人災なんです」
日本漁業の問題点とはなんなのか? その全貌を探る。
◆日本の対策は形だけ!? 世界からツッコまれないために必要なこととは?
まずはサンマの問題を探るべくサンマ漁獲量日本一を誇る宮城県・気仙沼港に向かった。記者が朝5時に現場に着くと、5隻のサンマ漁船が停泊しており、水揚げの最中に出くわす。その光景を見るかぎりとても不漁とは思えない。だが、「去年のこの時期と比べれば半分。三陸全体だともっとひどくて3分の1しか獲れていない」と、気仙沼漁業協同組合・代表理事専務の村田次男氏が教えてくれた。
サンマ不漁に関しては一部メディアで本州沖合の公海上での中国・台湾漁船による乱獲が原因のように書き立てられているが、実態はどうなのだろうか。
「マスコミが外国漁船の乱獲とか天候や海流のせいにしているけど、本当のことはわからない。ただ、台湾や中国など関係国間での管理は重要になる」(村田氏)
さらに前出・勝川氏も、「太平洋の北側から日本の近海にやってくるサンマは毎年200万t程度。そのうち中国・台湾の漁獲量は合わせても25万t程度で、日本のサンマ不漁は2国の乱獲が原因とするのは無理がある。単純に日本漁船が通常サンマ漁を行う排他的経済水域(以下、EEZ)に入る前にサンマたちが南下してしまった可能性が高い」と言う。
そもそも日本の漁業に影響する魚には、産卵場が日本近海ではない魚と日本のEEZ内に産卵場がある魚の2つに分けることができる。サンマは前者であり、産卵場も太平洋の南側広範囲に及び、日本だけの管理で資源量を管理するのは難しい。減少傾向にあるといわれるカツオも同様に前者に当てはまる。後者は、日本近海で成長するため、日本が資源量を管理することが可能。獲りすぎれば単純に減っていくわけだ。種類としては、マグロ、マイワシ、サバ、アジ、ホッケなどがこれにあたる。
「日本は自国単独でもできる国内資源の管理に、まともに取り組んでいない。サンマやカツオのような国際資源の管理でイニシアチブをとろうとしても相手にされないだろう」と勝川氏は厳しく指摘する。サンマの場合、まだ危機的状況というわけではないが、枠組みを設けることが大切になってくる。
今年の9月には日本、カナダ、ロシア、中国、韓国、台湾、アメリカが参加し、漁業資源に関する取り決めを話し合う北太平洋漁業委員会を開催。’17年中からサンマの国際的な漁獲規制を実施する方向で調整することに合意した。しかし、世界的に減少が顕著なわけではなく、日本の漁獲量が減ったので実施した側面も強く、日本本位な主張でもあった。
「戦後の日本は、世界中で水産資源を利用しながら、国際的な漁獲規制には常に反対してきた。国際社会からの信用はゼロに等しい。欧米の漁業国も昔は乱獲をしていましたが、痛みを伴って保護に取り組んだんです。今になって日本が国際資源の保護を訴えても説得力はなく、『まずは自分の国をなんとかしろ!』とツッコまれるのがオチです」(勝川氏)
一応、水産庁はサンマやスケトウダラなど7種目に漁獲可能量の上限を設定しているが、実質的な意味はないも同然とか。
「例えば、今年のサンマのTAC(漁獲可能量)は去年から大幅に削減されて、過去最低となる26.4万t。しかし、過去5年の平均値は22万tに満たないので、仮に今年が不漁でなくてもこの数値に達することはありません。資源保護をしているというパフォーマンスにすぎません」(同)
気仙沼漁業協同組合・代表理事専務の村田次男氏も「不十分な調査でTACを決めている。外国をリードしていくには、人、カネを使って継続的な調査が必要」という。
一見、漁師に対する手厚い保護とも受け取れるが、「目先の利益だけを見ても何の解決にもならない。安心して漁業をするためにも長期的にコンスタントに獲れる環境をつくってほしい」(気仙沼のサンマ漁師)とダメ出しする者もいた。
取材・文/高島昌俊 八木康晴(本誌) 取材・撮影/青山由佳 取材/森 祐介 写真提供/焼津漁業協同組合(一部)
― 世界で[日本の漁業]だけが衰退している!―
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