「日本人同士は助け合いが必要だ」――46歳のバツイチおじさんは美女を魔の手から救い出そうとした 〈第6話〉
突然、嫁さんにフラれて独身になったTVディレクター。御年、46歳。英語もロクにしゃべれない彼が選んだ道は、新たな花嫁を探す世界一周旅行だった――。当サイトにて、2015年から約4年にわたり人気連載として大いに注目を集めた「英語力ゼロのバツいちおじさんが挑む世界一周花嫁探しの旅」がこの度、単行本化される。本連載では描き切れなかった結末まで、余すことなく一冊にまとめたという。その偉業を祝し、連載第1回目からの全文再配信を決定。第1回からプレイバックする!
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英語も喋れないのにたった一人で世界一周の旅に出ることになった「46歳のバツイチおじさん」によるズンドコ旅行記、今回からついに海外篇に突入します。前回、大分空港から韓国はソウル行きの飛行機に飛び乗ったバツイチおじさん。果たして、無事に入国することはできるのか? フェリーにも乗れなかった46歳が、予約したホテルまで無事にたどり着くことができるのか? そして、花嫁候補との出会いは? 46歳のバツイチおじさんによるはじめての冒険旅行、「はじめてのおつかい」を観るような感覚でご一読ください!
【第6話 海外初日から軽く遭難する】
10月21日午後18時50分。韓国の仁川国際空港に到着した。
大分空港~仁川国際空港間はtwayairlineという名のLCCを利用。スカイスキャナーという格安航空券比較サイトを利用し7800円でチケットを購入した。
ただし、荷物が23㎏ほどある。15㎏以上はオーバーウエイトで、1㎏につき700円かかる。手荷物で5㎏ほど機内に持ち込んだが、荷物が3㎏オーバーのため2100円余分にかかってしまった。
これから世界中のLCCを利用するので、オーバーチャージ問題には頭を悩ませられそうだ。
満を持して降り立った世界一周の始まりの国。
興奮しているというよりは、少し緊張しているようだ。
浮ついた足をなんとか前に動かし、飛行機から出てくる荷物をピックアップした。
が、しまった!
早速、機内に忘れ物をした。
バックパックをつつむ金網だ。出国前、入念に使い方を学習したが、荷物の重量を減らすため金網だけ機内に持ち込んでいたのだ。それを座席に置きっぱなしにしてしまった。今から空港職員に話しても間に合わなさそうだ。
つーか、そもそも韓国語も英語も喋れない。
まぁ荷物が一つ減ったとポジティブに考えよう。
いや考えるしかない。大丈夫、大丈夫。
空港のゲートをくぐり一番始めにしたのはAndroid携帯Nexus5に韓国のSIMをさすことだ。初の海外SIM。事前に調べた高城剛的情報だとNexusのSIMの穴は細く専用のピン刺しが必要とのこと。
片言の英語とゼスチャーでSIMを売っている場所を聞くと、空港内に併設しているコンビニを案内された。
「docomoショップみたいなところじゃないんだ」
そうつぶやきながらコンビニに行くと、タトゥーを入れたヘビメタの若いお姉さんが、「どの携帯にSIMを入れるか?」というようなことを聞いてきた。
韓国語だ。全然わからない。
早速立ちはだかる言葉の壁。
しかし、ジェスチャーでなんとか通じ合うことができた。
Nexus5を渡し、SIMを取り外すための専用ピンを探した。
すると、ヘビメタのお姉さんはおもむろに自分の服につけていた安全ピンを取り出す。
そして、携帯の横に穴を見つけ、雑にピンを穴にねじ込みSIMを取り出そうとした。
「壊れる!」
そう思ったが、すんなりSIMが出てきた。
SIMの差し替えは韓国では当たり前のようで、その所作は日常に溶け込んでいた。こんなことから韓国のグローバル化が見えてくる。
その後、ヘビメタのお姉さんに「あっちにいけ!」と指をさされた。言われるがままに従うも、どこで何をしていいのかまったくわからない。
いきなりの大ピンチだ。
俺があたふたしていると、そばにいた若い女性が「日本の方ですか?」と喋りかけてきた。
彼女の名前は姜秀珍さん。同志社大学で日本語の勉強をしていたとのこと。「日本語上手ですね?」そう言うと顔が真っ赤になった。純朴な可愛い娘だ。
「パスポート貸してください」と言われ少し驚いたが、どうやら韓国ではSIMを買うのにIDが必要らしい。ITの情報管理がしっかりしていて、把握しようと思えば国が外国人のアクセスしたサイトを管理できるようだ。
その後、姜さんは、ホテルドットコムで予約した今夜のホテルへの行き方を手書きの地図まで書いて丁寧に教えてくれた。うれしかったので「一緒に写真を撮ってくだい!」とお願いすると顔が真っ赤なりながらもOKの返事。
「花嫁探しの旅」世界篇の第一歩は
かわいい娘さんに助けられたこともあり、
すごく順調に進んでいた。
幸先のいいスタートだ。
俺は23㎏のリュックを背負い、市内行きの鉄道に乗るため駅のホームに向かった。
それにしても重い。
持ち上げるたびに腰の痛みが心配になる。
46歳という年齢が重くのしかかってきた。
ここまで重いのには理由がある。
理由その1 コンタクトレンズ
まずは大量の使い捨てコンタクトレンズ。一年分になるとこれだけの量に。
重さは測ってないが2㎏近くあるかもしれない。
2週間用のレンズだと軽いのだが、アフリカなどの途上国で保存液が売っているかわからない。ネット情報だと大丈夫だと書いているがなかったら大変だし、水などで代用した場合に目が感染症になる恐れもある。
というわけで、衛生面の見地から使い捨てコンタクレンズを一年分購入。あと、もしものために、2週間レンズを半年分用意した。
「メガネにすればいいのに?」
そう思うかもしれない。だが、そういうわけにもいかない。
ここで、誰も興味がないバツイチおじさん情報を披露しよう!
バツイチおじさんの顔の魅力は目である。
両目の視力が0.01の俺がメガネをかけるとそれは牛乳瓶の底ほどの厚さとなり、レンズのせいで目の大きさが3分の2ほどになってしまう。そうなると、おじさんの魅力は半減だ。この旅の目的は花嫁探し。つまり、この大量のコンタクトは旅でモテるために必要な重さなのだ。
理由その2 デジタルガジェット
こう見えてバツイチおじさんは心配性だ。
心配性なディレクターは良いディレクターの証。まず、商売道具のカメラ。ディレクターという職業柄使い慣れているSONYの業務用の動画カメラを持っていくか? これは最後まで悩みに悩んだ。しかし、せっかく一年間もディレクターを休業するんだし、カメラを持っていってしまうと仕事モードになってしまう。散々考えたあげく業務用の動画だけを諦めた。
その保険としてSONYのミラーレスのα6000を持っていくことにした。これなら写真も動画も撮れる。
さらにバックアップの映像が撮れるようiPhone6+、Nexus5、SONYギャラクシーSIMフリーのスマホを3台。
あと、タブレットのNexus9SIM。これでも動画が撮れる。
写真整理用とブログを書くためのMacBookAir。
さらにMacBookAirのキーボードが壊れた時の保険として、折りたたみ式のキーボード。
旅先で音楽を取り込めるように外付けCDロムとSDカードリーダー。
SDカードは以前番組で買ったのが数十枚。
保険として携帯のバッテリーが切れたらすべてが終わるので、重さが1.3㎏あるMacBookAirも充電できるバッテリーを用意。
さらにやっぱりバッテリー1個じゃ不安なので、保険としてもう一個携帯用のバッテリーを準備した。
タコ足回線や海外用変換プラグも込み込みで、デジタルガジェット系の総重量は8㎏にもなった。
ふー、これで安心。
しかし、よくよく考えると少し変態じみた重さだ。
あとは衣類や薬、旅の装備品など、いろんな想いがつまった重さ23㎏の荷物を背負い、スマホを頼りに鉄道と地下鉄を乗り継ぎホテルの最寄り駅に着いた。
順調だ。
珍しく順調だ。
しかし、駅の改札を出た瞬間に事件が起きた。
携帯のバッテリーが切れたのだ。
いや、でも大丈夫。予備のバッテリーがある。
俺は23㎏もあるバックパックからバッテリーを取り出した。
しかしーー。
充電するのを忘れていた。
あんなにたくさん持ってきたのに。
あんなにたくさん準備したのに。
23㎏の重さがずしりとのしかかる。
やばい。
I am stranger.
ホテルも名前しかわからない。
どうしよう?
切り替えよう。
路上でいろんな人に話しかける。
しかし、俺がカタコトだからなのか、英語も韓国語も全く通じない。
駅を降り、地図をもとに一時間ぐらい探し回ったがホテルは見つからなかった。
時刻は深夜1時。
23㎏の荷物がさらに重くのしかかってきた。
その重さからバックパックの一部が食い込み、首のけい動脈を絞めつけた。
歩いているとクラ~っとなり、何度か意識が飛びそうになる。
いわゆる「オチかけた」というやつである。
23㎏は全くもって、リアリティーのない重さだ。
疲れた。
もう無理。
もう歩けない。
俺は道端に座り込んだ。
これは軽い遭難なのかもしれない。
ソウル初日からいきなり野宿なのか?
しばらく休みながら、辺りを観察していた。
そこは屋台街の一角だった。深夜なのに人が多い。
ビールが飲みたくなった。
喉が渇いた。飲みたい。
だから頑張る。
アルコールをモチベーションにし、再び23㎏の荷物と共に立ち上がった。
ホテルの名前を手掛かりにし、屋台で飲んでいる人達に場所を聞いて回った。すると、ほろ酔いのサラリーマン二人組の一人が知っているというジェスチャーをした。
スマホを取り出してホテルの名前を検索。指差しと地図でホテルの場所を教えてくれた。
スマホで検索してもらう。
そんな単純なことを思いつかなかった。
いや、疲れて思考が止まっていただけだ。
頭を下げ、「ありがとうございます!」と日本語でお礼を言い、地図を頭に思い浮かべながら道を辿った。
すると、予約したホテルが見えた。良かった。値段が8743円の割には悪くないホテルだ。
日本語が通じないので片言の英語でチェックインを終え、部屋に入る。
23㎏の荷物を床に置き、ベッドに横たわった。
疲れた~。
天井を見上げた。
そういえば今日、飛行機の中のチョコレートしか食ってねーな。
「そうだ、あの屋台に行こう」
南京錠でバックパックに鍵をかけ、夜の街に繰り出した。
先ほど見つけた屋台にふらりと入る。メニューは韓国語表記で、英語や日本語は一切ない。
他の人の食べ物を見て、ジェスチャーで「あれとあれをくれ!」と頼んだ。
韓国のビールと海老焼き、鳥の炒め物、生牡蠣がきた。すごいボリュームだ。
冷えたビールを喉に流し込んだ。
旨い。
瞬く間にすべて完食した。
世界に出て記念すべき1食めは大当たりだった。
その後、辺りの様子を観察しながらほろ酔い気分でビールを飲んでいると、日本語らしき男女の声が聞こえてきた。
「シジュウハッテ」
しじゅうはって? 何のことだ? 四十八手?
爆笑する男女の声。どうやら隣の屋台で観光客の日本人女性二人組が韓国人男性三人組にナンパされ、一緒に飲んでいるようだった。
韓国人は流暢に日本語を操り、下ネタで盛り上がっている。
「アソコナメラレルトキモチイイ」という日本語も片言だからあまりやらしく聞こえない。
ちょっと気になったので、しばらく様子を伺っていた。
韓国の屋台街は料理とビールは屋台で出すが、韓国の焼酎チャミスルやジュースは近くのコンビニで買って来てもいいシステムのようだ。
「ちょっとジュース買って来ます」
女子二人組が席を離れコンビニに向かった。
その途端、残った韓国人三人組が作戦会議を始めた。
どうやらゲームで女の子を潰す作戦を立てているようだ。
「お待たせしました~」
女の子二人組が帰って来た。
すると、懐かしい山手線ゲームの下ネタバージョンが始まった。
「セメラレルト、ヨワイバショハ?」
(手拍子をしながら)パンパン 「耳」
(手拍子をしながら)パンパン 「首筋」
(手拍子をしながら)パンパン 「アソコ」
「ちょっとーやめてよ~」
爆笑が起きる。
その度に、女の子にチャミスルを一気させようとする。
昔の日本の大学生みたいなノリだ。
ふと、彼女たちのことが心配になった。
見知らぬ土地での開放感。
異国の男と酒がもたらす高揚感。
わからないでもない。
しかし、危険もはらんでいる。
ゲームが進むうちに酔いすぎ、潰されるのではないか?
こういうとき、日本人同士は助け合いが必要だ。
俺は屋台の会計を済ませ、隣の屋台へ向かった。
そして意を決して彼女たちに声をかけた。
「大丈夫ですか?」
大人の男なら当然の振る舞いだ。
こちとら九州男児だ。
困ってるなら俺に言ってこい。
それぐらいの熱い思いを顔面にみなぎらせ、
彼女たちに話しかけた。
だが、女性二人組は――、
ガン無視。
こちらの酔いも醒めるほどの
殺傷力の高いガン無視だった。
むしろ二人は、「何でこんなに盛り上がってるのに変な感じで入ってくるの?」という感じのしらけた顔まで繰り出した。
やり場のない怒りが沸々とこみ上げきたが、ここでキレるわけにもいかない。
正義漢モードに入り後戻りできなくなっていた俺は、勢い余って韓国人男性の顔を睨みつけた。
爽やかなイケメンだった。
一点の曇りもないほどのイケメン集団だった。
なんだ普通に盛り上がっていただけなのか……。
バックパックにあれほどコンタクトレンズをしのばせているのに、
俺は何ひとつ見えてなかったのである。
そう気づくと、急激に恥ずかしくなった。
もうこの場に一秒もいたくない。
俺は足速にホテルへと戻り、ベッドに転がった。
「イケメンって良いよな~」
むしゃくしゃしたので、ごにょごにょでもして寝よう。
そう思い、WiFiでネットに繋ぎ無料エロサイトXVIDEOSにアクセスした。
だが、どうにもこうにもアクセス不可能。
どうやら韓国ではイリーガルなアダルトサイトにアクセスできないように国が管理しているようだ。
「IT情報管理、しっかりしてるな~韓国」
世界一周花嫁探しの旅、一か国めである韓国での記念すべき初夜。
俺は韓国のIT力とイケメン力に感心しながら、
悶々としたまま眠りについたのだった。
次週予告『バツイチおじさんが韓国でモテる!? 花嫁探しの旅、いきなりクライマックスか!?』を乞うご期待!!
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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