更新日:2022年06月23日 14:37

相撲の「つめ」で「うっちゃり」が減った理由は「力士の大型化」!?

 いよいよ1月10日から大相撲初場所がスタートする。  読売新聞によると、2016年の地方巡業の開催日数は、貴乃花が横綱に昇進した1994年以来22年ぶりに年間70日に迫る勢いだという。 (「相撲人気回復、地方巡業は年70日に迫る見通し」 読売新聞 2016年1月1日)  相撲にハマる若い女性も増え、「スー女」なる言葉も誕生した。どうやら相撲人気の回復は本物らしい。

運動生理学の面から相撲を研究する明治大学教授の桑森真介氏

 しかしながら、この人気、力士のキャラ先行である面は否定できない。なんとなくノリで見たものの、巨体がぶつかり合うだけだと思っている人もいるのではなかろうか?  そんなことはない。短時間で勝敗が決することが多い相撲だが、実は合理的かつ科学的な技術の攻防がある。それらを知れば、力士のキャラから好きになった人も格闘技通もにわかファンも相撲の楽しさが倍増するのは間違いない。  というわけで、『世界初の相撲の技術の教科書』(ベースボール・マガジン社)の著者である明治大学教授の桑森真介氏に、相撲観戦がより楽しくなるポイントを語ってもらった。 ⇒前編はこちら

自分の優勢を確保するための「前さばき」

 『立ち合い』から『押し込み』に入り、今度は、いよいよ攻撃態勢にはいる。この態勢を確保するために行われるのが『前さばき』だ。

脇を差し返すのは総合格闘技などでも重要な技術だ

「自分が得意とする四つ身の態勢を確保するために行う一連の行為が『前さばき』です。『前さばき』の中で用いる技術には、『おっつけ』(廻しを取ろうとする相手の攻撃を脇を締めて防ぎながら相手の体を下から上に押し上げる)や、『巻き返し』(瞬間的に体を引いて発生した隙間に自分の腕を入れ込み差す)などがあります。」  そして、強い力士は皆、「前さばき」が上手いという。 「北の湖や大鵬など大横綱と呼ばれる人たちは『前さばき』がうまかった。『前さばき』で重要なのは、肩に力が入らず上体が柔らかいこと。大鵬が『柔らかかった。強かった』とよく言われるのは、この『前さばき』の巧さによるところが大きいのです」  桑森教授が『前さばきが上手い』と評価する現役力士は、妙義龍だ。昨年の11月場所で横綱鶴竜を下す金星を上げるものの、2桁を超える黒星を喫して残念ながら平幕に下がった妙義龍だが、初場所では「前さばき」の巧さに注目してみよう。

見極めが難しい「中盤の攻防」

『前さばき』が終わった後、いよいよ中盤の攻防にはいる。 「ここでの攻め方の見極めが極めて難しい。原則的には先手を取って前に出るのが重要なのですが、一気に前に出て土俵際で逆転されるということも往々としてある」  桑森教授によると、相手の廻しを取った後「じっくり待って攻めるか」「一気に攻めるか」は、力士の体格や性格によって攻め方が変わってくるという。 「例えば白鵬なんかはスタミナもあるのでじっくり待って攻めるのに向いている。じゃあ日馬富士が同じようにじっくり待って成功するかというと難しい。日馬富士は早め早めに攻撃を仕掛けないといけないタイプ。鶴竜も同じタイプですね。これは体のサイズと関係してきます」  そこで桑森教授が初場所の見どころとして指摘するのが、日馬富士と鶴竜の横綱対戦だ。 「例えば、日馬富士と鶴竜が対戦したとして、中盤でどっちが先に攻めるか、どっちが待つか、見ものだと思います」

勝敗を決定づける最後の「つめ」

 いよいよ勝負も最終盤、最後の最後に勝敗を決めるのが「つめ」だ。やはりここでも下半身の柔軟さと強さ、そして重心の低さが重要なのだという。 「この局面でも、しっかり腰を落とすのが基本。『中盤』とも共通しますが、ここでも一気に攻めて土俵際で差し手を抜いて突き放すのか、腰を下ろして慎重に追い込むのかなどの、見極めが重要です」  以前の相撲では、相手が土俵際で「つめ」ようとする際に、「うっちゃり」で逆転するということが多く見られたという。「うっちゃり」は、「吊り」を得意とする、いわゆる「吊り腰」がある力士が用いたようである。 「例えば『相撲の神様』と呼ばれ、戦中に大活躍した双葉山なんかが典型的でした。土俵際まで寄られた際に、膝を曲げて腰を落として相手をうっちゃるという相撲をよく見せていました。しかし、最近の大相撲では力士の大型化もあってか『うっちゃり』はあまり見られなくなりました。体の大きな相手を吊り上げると、膝や腰に大きな負担がかかり、どうしても怪我のリスクが高くなるので、力士への指導も『吊らずに前に出ろ』となっているのでしょう」  こうした「前に出る相撲」全盛のいまの時代、「つめ」の見事さが光るのは、白鵬だという。 「双葉山は、相手を寄り切る際に、土俵際で体の力を抜いて、しゃがみ込むようにして、腰を下ろしていた。そうすると相手が棒立ちになって何にもできなくなる。白鵬は、土俵際で、しばしば双葉山のような土俵際の『つめ』を見せる。あの白鵬の技量はさすがです」  相撲は短時間で勝敗が決する格闘技だ。すべての取り組みがここまで挙げた、「五つのポイント」の通りに進行するわけではない。しかしながら、桑森教授が解説してくれた「技術面の評価ポイント」をふまえて、大相撲観戦すれば、今まで気付くことができなかった力士たちの技量の巧拙が見えてくるはずだ。ぜひ、10日からの初場所は、こうした観点で見てみると、今まで見ていた相撲とまた違った面白さが出てくるかも!? <取材・文/菅野完 写真/『世界初の相撲の技術の教科書』(ベースボール・マガジン社)収録DVDより>
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