更新日:2022年07月07日 18:49
恋愛・結婚

純潔な弟に風俗で女性経験させようとした姉の話【コラムニスト原田まりる】

弟を呼び出し説得するも……

 女性は驚いていた。しかしガールズバーの経営者らしいアドバイスを私にくれる。「うちにもね、そういうお客さん来るんだけどね、付き合いで来ただけで、女性にあんまり興味ないっていう若いお客さん。けどね、それって女性慣れしてないだけっていうパターン多いよ」 「そうなんですか」 「うん、北方謙三さんも言ってたけどね、一回風俗に行っちゃえばいいの。そうしたら変わるから。なんならいい店お紹介するし、オーナーには口を聞いておくから。弟さん心配だし、ちょっと呼んでみて。話きくわ」  私は早速弟に電話をし、呼び出すことにした。話の核心を伝えると、弟が来ることを拒むだろうと思ったので「お肉たべよう」と大学生が喜びそうな適当な誘い文句で弟を呼び出した。弟は30分ほどしてやってきたが、席に着くなり怪訝な表情で警戒心をあらわにしていた。私たちが「なんでも頼んでいいよ」と何度言っても、終始一貫してのり茶漬けしか頼まず、場の雰囲気に飲まれないように警戒していた。 「あの、お姉さんから聞いたんだけどね、いまから風俗にいこっか」  弟がのり茶漬けをすすりきったところでガールズバーのオーナーは核心に触れた。弟は何が起こっているのか全くわからず困惑していながらも、事の発端は私にあるとわかっていたようでこちらを睨む。  私たちは必死に弟を説得した。  君が心配だ、君の視野を広げるためには女性経験があったほうがいいのではないか、北方謙三先生もそう言っていた。はじめはそうオブラートに包み話していたが、頑なに拒む弟と攻防戦を繰り広げている間に、弟を納得させるまで帰してはいけないような気がしてきて必死に説得を続けた。  そして、終電が近くなったころ、ついに弟がキレた。「もう帰るから!いい加減にして!」とリュックを背負うとそう叫んだ。弟はいままでみた事ないような険しい表情であった。私たちはやりすぎてしまったようだ……。  そして翌日、母親から電話があった。話を聞くと弟が母親に「お姉ちゃんから風俗に斡旋された」という怒りの電話をしたようで、「弟を巻き込むな」という通告だった。その後しばらく弟とは連絡がとれない時期が続いた。男性なら誰しも女性と関係を持ちたがるはずという勝手な先入観が生んだ不仲劇。男性だって純潔を貫きたい、そういうこともあるようだ。先入観にとらわれて本人を見ないと、このように亀裂が走ってしまうこともある。〈文/原田まりる〉

白衣ですが、完全に怪しい姉になってしまった

【プロフィール】 85年生まれ。京都市出身。コラムニスト。哲学ナビゲーター。高校時代より哲学書からさまざまな学びを得てきた。著書は、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)。レースクイーン、男装ユニット「風男塾」のメンバーを経て執筆業に至る。哲学、漫画、性格類型論(エニアグラム)についての執筆・講演を行う。Twitterは@HaraDA_MariRU 原田まりる オフィシャルサイト https://haradamariru.amebaownd.com/
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私の体を鞭打つ言葉

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