「勇気を振り絞れ俺! ここしかないぞ俺!」――46歳のバツイチおじさんは満天の星空の下で勝負に出ようとした〈第28話〉
リー「ごっつさんも出てきたんですか?」
俺「うん。暗闇の中でお酒でも飲もうかな、と思って」
リー「一緒に飲みましょう。私、飲めないから部屋のジュース持ってきます」
食事に続き、真っ暗闇の二次会が始まった。
気づくと外は満天の星空。星の光を頼りにかすかに見える彼女の横顔を見ながら、お互い拙い英語で人生を語り合った。
リー「私、少し眠くなっちゃったな」
俺「俺も、少し眠い」
リー「今日、いろいろ動き回ったもんね。私のベッドふかふかで気持ちいいんだ」
ん? ベッド??
もしかして誘ってる?
リー「ごっつさん、明日起きたら一緒に紅茶の美味しい店で朝ごはん食べましょう」
ん? ベッドは?
俺「うん。いいね」
リー「じゃあ、起きたらごっつさんの部屋ノックするね。おやすみなさい~」
俺「おやすみ~」
そう言うと、リーはあっさり部屋に帰ってしまった。
きっぱりであっさりなリーに、俺は振り回されっぱなしだ……。
翌朝、村に電力が戻った。二人は紅茶工場に隣接するカフェで、朝食を食べながらセイロンティーを飲んだ。
食後、やっと繋がったWi-Fiでスマホをチェックしてみると、ギチからメッセージが入っていることに気づいた。
ギチ【ごっつー、まだエッラに来ないの~?待ってるよ~】
やばい、やはりギチはこの小さな村にいる。
リーと鉢合わせになったら最悪だ。
すると、リーもまたスマホを見ながら表情を変えた。
リー「ごっつさ~ん、やばいよ~」
俺「どうした?」
リー「ティンティンが私たちを追いかけて来て、まもなくエッラに到着するみたい」
俺「え? マジ」
リー「うん。どうしよう」
やばいやばい。ティンティンの性格を考えると、エッラに着いたら確実に俺たちを見つけ出し、同じゲストハウスに泊まるだろう。置き去りにしたことをがっつり責め立てられるだろう。すると、せっかくのロマンチックな二人旅がここで終わってしまう。
エッラは小さい村だ。ギチとティンティン、今この状況では絶対に会いたくない2人に遭遇するのも時間の問題だ。俺はリーに向ってこう切り出した。
俺「リー、この村から逃げない?」
リー「え? すごい!」
俺「なんで?」
リー「私も全く同じことを考えてたの」
俺「本当?」
リー「ホント」
俺「逃げる?」
リー「うん。逃げる」
そう言うとリーは小悪魔のように笑った。
俺は小悪魔の笑顔に改めて悩殺された。
2人は急いで部屋に戻り、パッキングを済ませると宿のお会計をした。
そして小走りで格安ローカルバス乗り場へ向かった。
行き先も確かめずバスに飛び乗ると、それはヒッカドゥア行きのバスだった。
そこがどんな場所かもわからない。
でも、そんなことはどうでもいい。
愛の逃避行に行き先は重要ではない。
2人は満員バスの隣り合わせの席に肩をぴったり寄り添って座った。バスには10時間近く乗らなければならないようだ。
俺「リー、到着まで結構長いから、眠かったら俺の肩で寝ていいよ」
リー「うん」
リーは少し恥ずかしそうな顔をした。
バスを見下ろすと崖に転落しそうな絶壁の山道を、ぐにゃぐにゃと曲がりながら進んだ。
カーブを曲がるたびに体が左右に揺さぶられる。
その度に二人の体は触れ合った。
バスに揺られながら数時間が経つと、リーはコックリコックリと寝落ちそうになっていた。
やがて、自然な流れで俺の肩に頭をそっとくっつけた。
キターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
リーの息遣いを肩越しに感じた。
やばい、いま、完全にリーと密着している。
愛の逃避行感が増しに増している!
そう胸を高鳴らせた、その瞬間――。
「#$%&*$**%%@!!!」
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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