その後、インドビザを受け取るためコロンボを経由してキャンディに向かった。 ビザセンターでインドに出入り可能な6か月間のマルチビザを習得した。 俺は一刻も早くリーとの思い出の国、スリランカを離れたかった。 インドですべてをリセットしたかった。 スカイスキャナーでインド・バラナシ行きのチケットを予約し、キャンディから空港に近いニゴンボ行きの格安バスに乗った。 バスに揺られると、リーが俺の肩に頭をつけて眠ったことを思い出す。 車窓に流れる景色も、町の匂いも、すべてリーと共有してきたものだ。 早くこの国から脱出しないと、俺はまだリーとお別れできないままでいる。 そのとき、脳内iTunesに近藤真彦の「スニーカぶる～す」のオルゴールバージョンが流れた。 ×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　× ♪　ペアでそろえたスニーカー　春夏秋と駆け抜け 　　離れ離れの冬が来る～ リー「特等席があるの。一緒に座らない？」 俺「え？　ここ一番安い席だよ」 リー「ふふふ。中国の友達がメッセージで送ってきたの。いい席よ」 ♪　5分だけでもいいから　俺の話を聞いてよ 　　別れの電話取り～消せよ～ リー「ごっつさん、バイク借りてこの辺ツーリンングしません？」 俺「俺、原チャリの免許しか持ってないけど」 リー「大丈夫。私が免許持ってるから。ごっつさん、私の後ろね」 ♪　ジグザグザグ　ジグザグジグザグ　一人きり～ 俺「リー、せっかくだから、暗闇の中、右手でカレー食べない？」 リー「それ、面白いアイディア！」 ♪　青春の手前で　うらぎりはないぜぇ～ リー「今日、いろいろ動き回ったもんね。私のベッドふかふかで気持ちいいんだ」 ♪　ジグザグザグ　ジグザグジグザグ　二人きり～ 俺「リー、この村から逃げない？」 リー「え？　すごい！」 俺「なんで？」 リー「私も全く同じことを考えてたの」 ♪このままでぇ～　背中から～　ずっと～　抱いて～　いたい～ 俺「リー、到着まで結構長いから、眠かったら俺の肩で寝ていいよ」 リー「うん」 ♪　Baby　スニーカーぶる～す　Baby　この世界中　Baby　涙でびしょぬ～れ～ リー「別々の部屋でお願いします」 リー「だけど、隣の合わせの部屋になりますか？」 ♪　Baby　スニーカーぶる～す　Baby　俺たちはまだ リー「……でも、2人きりの旅になって良かった」 ♪　Baby　青春知らずさ～ リー「ごっつさん、ありがとう。でも私、1人になりたいの」 ×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　×　× 完全に自分に酔っていた。 気分は悲劇のヒーローだった。 その時、ある異変に気づいた。 そう、ここからがメガトンピンチの始まりだ。 俺「あれ？　荷物がない！」 総額30万円相当のパソコン・カメラ・タブレット・スマホを入れているサブバッグが見当たらない。 俺「盗まれた！」 バスの乗車員とバス内を全て探すが見つからない。 乗車員「ないですね。スリランカなんで、あきらめたほうがいいかもですね」 やられた…。 高価な品物なので、絶対に盗まれないようにいつも肌身離さず持っていたのに……。 自分に酔いすぎてしまい、隣の席にふと置いてしまっていたのだ。 ここは海外。周りに手グセの悪い奴がいることまで気が回らなかった。 スニーカーを忘れたリーを追ってここまで来たのに、最終的に俺が荷物をなくしてしまうなんて……。 被害総額のデカさに加え、傷心のタイミングでこの仕打ちはあまりにも残酷だ。 これが、引っ張りに引っ張り続けたメガトンピンチの全貌だった――。 「というか、パソコンもカメラもスマホなくなって、これからどうやってこの連載を書けばいいんだろうか……」 俺は残酷すぎる結末に顔面蒼白となり、ただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。 次号予告『メガトンピンチを抱えたままインドに入国！　果たしてこの危機から脱出することはできるのか!?』をを乞うご期待！ 1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ！」の制作に参加。続いて「ザ！鉄腕！DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ！世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」（フジテレビ）をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる！ニュースショー！」（テレビ朝日）「政治家と話そう」（Google）など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中