「勇気を振り絞れ俺! ここしかないぞ俺!」――46歳のバツイチおじさんは満天の星空の下で勝負に出ようとした〈第28話〉
俺「大丈夫?」
リーはこくりとうなづき、ドアを閉めた。
いったい、何があったんだろう?
俺は彼女のことが心配で、眠れぬ夜を過ごした。
翌朝、一緒に朝ごはんを食べに行った。おそらく、この旅で一緒に食べる最後の朝食だ。
しかし、食事のことよりも、俺は涙の真相をどうしても聞きたかった。
俺「リー、大丈夫? 昨日の夜、泣いてる姿を見たんだけど」
リー「……大丈夫じゃないかも」
俺「どうしたの? 何があったの?」
嫌な予感がした。
リー「実は昨夜、電話で中国にいる彼氏にごっつさんのこと、少し話したのね。そしたら彼氏が大激怒してしまって。付き合って初めてかもしれない。あんなに怒るなんて…」
そうか。
彼氏いるんだよな。
忘れてた。
俺がケンカの原因だったのか……。
俺「そうか。でも、今日は最後の日だし、一旦彼氏のことを忘れて今日を楽しもうよ」
リー「………」
俺「昨日の夜、今日はゴールという古い街に行こうって約束したよね。一緒に行こうよ」
リー「………」
なんだ、この沈黙は。
まずい……かも。
リー「ごっつさん、ありがとう。でも私、1人になりたいの」
そうか。
リー「ごめんね」
やっぱり。
俺「じゃあしょうがないね」
リー「ごめんなさい。ワガママ言って」
俺「いや~大丈夫、大丈夫。気が向いたらWeChatに連絡ちょうだい!」
リー「……ごっつさん優しいね」
そう言って彼女は俺の元を去った。
「女はいつも気まぐれだよな」
俺は空いた時間、この連載の原稿を書こうと思っていたが、それどころではなかった。
気づくとリーのことを考えていた。
連載を書くのを諦めると、世界中のサーファーが集まるという綺麗な海を、日が暮れるまで眺めた。
「なんかうまくいかねーなー」
二人旅の最後の夜、俺は一人部屋でボーっとしていた。
いや、正確には彼女が部屋に帰ってくるのを待っていた。
時刻はもう夜8時を超えてしまった。
リーは一人で晩ごはんを食べてしまったに違いない。
「なんでいつもこうなっちゃうんだろう」
すると、隣の部屋から物音が聞こえた。どうやらリーが部屋に帰ってきたようだ。だけど、約束だ。ノックさえ許されない。
俺はスマホを取り出し、WeChatを開いた。
そして、リーからメッセージが入るのを待った。
メッセージが来るのを心の底から願った。
その時だった――。
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けるとリーが立っていた。
リー「ごっつさん、フルーツ買ってきたから屋上で一緒に食べませんか?」
俺「…え!?………うん、食べる」
リー「じゃあ、フルーツの皮を剥いて持って行きますね」
二人は屋上に椅子とテーブルを用意し、フルーツを食べた。
俺「今日は何してたの?」
リー「ゴールの街を一人でうろうろしてました。でね、いろいろ考えたの」
俺「うん」
リー「私、やっぱり彼氏のことが好きなんだなぁと思って」
俺「……そうなんだ」
リー「今回の旅も彼が私のためにいろいろ手助けしてくれたの」
俺「うん」
リー「でね、私の彼氏が言うには……」
それからリーは堰を切ったように彼氏の話を始めた。
俺はそれを「うんうん」と聞くだけだった。
いいお友達で終わる。いつものパターンだ。
満天の星空の下、彼氏の話は1時間ほど続いた。
俺は切なくなり、遠くを眺めた。
すると突然、辺りが真っ暗になった。
俺「停電?」
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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