「魂を汚さない生き方」が逆転力を生んだ
花房:マリカさんは、結構言い返したり、やり返したりしそうですよね?
生島:そう思われがちですけど、私、親が年をとってからの子で、古風に育ってるせいか、男に手を上げるってのはできない。ケンカになると、大概相手の方がヒステリックになりますよ。
花房:私の知人で長らくDVされてた子は、ある日ぷつっと切れて、旦那のことハサミでめった刺しにしましたね。まず、旦那の制服を切り刻んで。
生島:いや、それは危ないでしょ(笑)! 殺人未遂じゃないですか。
西原:「シャイニング」ね。
花房:でも、それでぴたっとDVが止まったんです。まぁ最終的には離婚しましたけど(笑)。その男のDVは、制服を着るような固い仕事のストレス、そのストレスに見合う給料じゃないってところから来てた部分がかなりあったと思うんです。周り見てても、稼ぎが少ない男のほうが余裕ないからか嫉妬深くなって、支配的になることが多い気がします。
西原:やっぱり、貧困というストレスの中にろくでなしは蔓延していくんですよ。
生島:確かに、社会的地位があると、それが抑止力になりますもんね。でも、金持ちにも病んでる人はいますよ。
花房:貧乏だと離婚もできないですしね……。夫のDVや浮気でどんなに苦しんでいても、どうして別れないの? って聞いたら、生活ができないって。相談だけでも弁護士に駆け込むとか、いろいろ知識があれば違ってくるのに。結局、夫も金ないから慰謝料もろくに払えないし、養育費なんてもってのほか。離婚後にお金をもらえなくて負のスパイラルに陥る人、たくさんいますよね。
生島:私もそうでしたよ。子供が中学に上がるまでは我慢、我慢って。ただね、魂を汚さないじゃないけど、お金に屈しない生き方をしてきた自負はあります。経済的な理由で、自分の中でとっくにダメになってる男に依って我慢するくらいなら、貧しくても自分で稼いでやるって。そうやって息子を育てあげたし、何回貧乏になっても這い上がってきた。生活のために、お金のために、立場のために我慢っていうのはなかったな。自分の気持ちに嘘ついたり、相手に嘘つくのも嫌だし。自分の人生を諦めたりできなくて何回も玉の輿から降りました。しかも手ぶらで(笑)。
――ホステスでトップに上りつめて贅の限りをつくし、資産家の1人息子や大物経済ヤクザの子息と結婚。DVや浮気で別れて、極貧から今、作家として自叙伝を出し、暮らしぶりもいい……マリカさんは這い上がるどころか、逆転してますよね。
生島:ジェットコースターみたいってよく言われます。でもね、傑物に好かれるには「金に負けない」って意地や心意気は絶対必要だと思うんです。なめんなよ、と。札束ごときで私を縛れると思うなよと。したら、相手も「おっ、なんだ」となるじゃないですか。西原さんも、お金目当ての女じゃないから高須先生と今の関係がある、とおっしゃってたけど、結果そうなのは経験で身に染みてます。私、3回も4回も結婚したのに、一回も慰謝料もらってないですから。
花房:え? 一度ももらってないんですか?
生島:もらってないですよー。養育費だって一円も。全員から慰謝料もらってれば、ビルくらい建てられたんじゃないかな。次からはもらいます。もう年だし(笑)。
西原:マリカちゃんはアギーレ法律事務所行って、過払い請求してきなさい(笑)。あなたは例外だから。
西原:でもさ、考えさせられる話だよね。東京の女のコたちを見てると、みんな「くれくれ」言って、守ってもらうのが当たり前になってるでしょ。守られてはだめなの。パートナーとは戦友で、フェアトレードじゃないと。どちらかが負担になってはダメ。そういう関係では、いつか事故が起きるんです。
長い人生、突然の嵐がやってきた時に、自分の力で生きていけるように、人間としてのキャリアアップをして欲しい。幸せは自分から取りに行って下さい。そのためには、(小声で)多少汚いこともしてね。「衣食足りてチンポを知る!」ですよ。
花房:すごい格言、部屋に飾りたいです。「くれくれ」言ってると、依存することに慣れて卑屈な人間にしかなれないですもんね。
生島:今、貧困の中にいても、他人を妬まず、お金に負けないで生きていけば、いつか自分で立てるようになると思います。
西原:そう。だからマツエクがどうとか、引き寄せがどうとか言ってないで、もっと生きる知恵をつけて下さい。最後に愛は勝たへんで~!
【西原理恵子】
1964(昭和39)年、高知県生まれ。武蔵野美術大学卒。1988年、週刊ヤングサンデー『
ちくろ幼稚園』でデビュー。1997(平成9)年に『
ぼくんち』で文藝春秋漫画賞、2005年には『
上京ものがたり』『
毎日かあさん』で手塚治虫文化賞短編賞を受賞。『
女の子ものがたり』『
いけちゃんとぼく』『
この世でいちばん大事な「カネ」の話』『
生きる悪知恵』など著書多数。
【花房観音】
京都女子大学中退。2010年「
花祀り」で、第1回団鬼六大賞を受賞し、デビュー。映画会社、旅行会社などを経て、現在もバスガイドを務める。「
まつりのあと」(光文社新書)が絶賛発売中
【生島マリカ】
1971年、神戸市生まれ。最終学歴小学校卒。在日2世。複雑な血筋の両親のもとに生まれる。父親の再婚を機に13歳で家を追い出され、単独ストリート・チルドレンとなる。3度の結婚と離婚を繰り返し、2度の癌を経験。自分が死ねば、同じく天涯孤独になる一人息子への遺言を兼ね、文章を書き始める。2012年夏、真言宗某寺にて得度。著書に『
不死身の花―夜の街を生き抜いた元ストリート・チルドレンの私―』(新潮社)