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新日本プロレスの外国人選手バスに潜入――フミ斎藤のプロレス読本#006【Midnight Soul編1】

新日本プロレスの外国人選手バスに潜入――フミ斎藤のプロレス読本#006

本日から全10話でお届けするシリーズ読み物“Midnight Soul”。筆者が1994年2月に小説誌『月刊小説王』(角川書店)に発表した習作“Image Circuit”に加筆し、新タイトルに改題したものです。

 1992年

 レインボー・ホールを出ると、ひんやりとした12月の風が顔にぶつかってきた。体育館のなかが熱かったぶん、外の空気がよけいに冷たく感じる。知らないうちに汗をかいていたようだ。

 1万人を超す人びとがいっせいに立ち上がったり、座ったり、びっくりしたり、ため息をついたりしたら、それだけで温風ヒーター付の大音響になる。

 リングの上ではまだ試合がつづいている。何秒かにいちどずつゴーッという歓声が波打ってきては、満ちた潮がゆっくり引いていくようにやがて沈黙が訪れ、またしばらくするとゴーッという歓声が響いてくる。

 メインイベントを最後まで観ないで現場から出てくるなんて、プロレス雑誌の記者としては失格かもしれない。

 時間は9時15分をちょっとまわったところだった。新幹線の上りの最終にはもう間に合わないだろう。でも、なんとか今夜じゅうに東京の編集部に戻りたい。

 選手たちは全員、試合が終わるとそのまま大型バスに乗って東京に戻る。あしたはあしたでまた千葉・松戸で興行がある。

 東京に帰るにはこのバスに乗せてもらうしかない。ちょっとずうずうしいかもしれないけれど、試合が終わるまえにバスに乗り込んでおいて、みんなの帰りを待っていることにした。

 移動バスは日本人選手用と外国人選手用の2台。こういうときは、迷わず外国人サイドを選んだほうがいい。

 日本人選手側のバスにも何度か乗せてもらったことがあるけれど、やっぱりあの空間は――そういう貼り紙はしていないけれど――“Keep Out関係者以外立ち入り禁止”だ。

 頼まれもしないのに他人様の家のお茶の間にずけずけと上がりこんでしまったような、ぎりぎりのプライベート空間を侵したような、そこにいることに居心地の悪さを感じる。それに、番付ごとにそれぞれ座席のポジションが決まっているからよそ者が入っていくスペースなんてない。

 日本人選手用のバスにはちゃんと序列のルールのようなものがあって、暗くした車内を沈黙が支配する。外国人選手たちの集団には、それこそ海外旅行の団体ツアーのような、束の間ではあるけれど旅先での時間とスペースをシェアする仲間たちのなごやかさがある。

 みんな、けっきょくはどこか遠いところからやって来て、またいずれはファミリーや大切な人たちが待っているホームタウンへ帰っていくアウトサイダーの集まりだ。ぼくも、ここではまちがいなくアウトサイダーなのだ。

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大型バスのフロントガラスを軽く叩く

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