更新日:2022年08月31日 00:45
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都民ファースト最有力の新人候補が最も遅い当確だった――投開票日に見せた素顔【密着ルポ】

武蔵野の転換点

 事態が動いたのは、22時5分すぎだった。「NHK選挙WEB」で、75%までの開票結果が報じられたのだ。鈴木と松下が2万1000票で並んでいる。すでに島嶼部と武蔵野市以外ではほぼ情勢が判明していた。「こわいこわい」という女性の声があがった。  会場には40名ほどの支援者が残っていた。スマートフォンで開票速報を確認している人が多い。「1時間以内にはわかるだろうな」と誰かが呟くのが聞こえたが、結果はその後、意外とすぐに判明した。  22時13分頃、NHKの選挙WEBで鈴木の当確報道が出ると、会場からは「うぉー」というどよめきが上がり、男女問わず泣き出す選挙スタッフが相次いだ。別のボランティアスタッフは「それだけ厳しい選挙だったんですよ」と漏らした。鈴木は「よしっ」と一言発し、スタッフと抱擁やハイタッチをかわしていったが、緊張した面持ちまだは晴れなかった。  それでも、NHKの選挙特番で22時30分頃に、地図上の武蔵野市に都民ファーストの緑色が描きいれられ、会場から「オー、入っている入っている」との声が上がると、鈴木の表情もようやくスッキリしたものに変わった。  鈴木の当選は武蔵野市の政局にも、影響を与える可能性が大きい。元武蔵野市長で自民党の土屋正忠衆議院議員と、民進党の菅直人元首相による“土菅戦争”とも呼ばれる保革の対立が繰り広げれていた地盤に、第三極がねじこまれたからだ。  事務所の前方に立った鈴木は、「今日は僕にとっても、武蔵野にとっても、本当に大きな転換点になりました。当確が出てから気が引き締まりました。私に託されなかった票にこめられた意見もきっちりと聞いて、東京都政で頑張っていきたいと思います」と挨拶した。

人の心を動かせる政治家に

 喜びに沸く会場の興奮は、23時をすぎても冷めなかった。後援会長などの挨拶で盛り上がったあとは、支援者と鈴木との記念撮影が続いていた。自らも希望の塾に参加し、選挙戦では地元との架け橋として鈴木を支え続けた選対本部長の深田貴美子武蔵野市議は、「希望の塾の生徒たちが、地域とも融合しながら戦った市民選挙でした。鈴木には、初心を忘れず、政局にとらわれず、都民や市民の目線で頑張って欲しい」と期待を込めた。  万歳三唱を終えた鈴木に話を聞くと、「喜びは一瞬で消えて、すぐにでも仕事をしたいという気持ちになりました」という。 「持続可能な東京にしていく、という大きな目標がある一方で、地震対策を始め武蔵野市にもたくさんの課題がある。市民とのコミュニケーションとリサーチをすぐにでも進めます」  そのうえで、勝因は「選対のスタッフに恵まれたことだ」と振り返った。 「支えてくれた人の数が多く、早朝6時の街頭でも、5~6人来てくれたし、1万枚のポスティングもすぐに終った。利権やしがらみではなく、純粋な志で集まってくれたスタッフに支えられ、この選挙チームで戦えたのは、自分の政治家としての原点になりました」  出馬前まで、政策面から政治家と有権者を結びつけることを目的として、「日本政治.com」というサイトを運営していた鈴木だが、選挙を通じて政治についての見方も変わったようだ。 「政策はもちろん重要だが、政治家である以上、人の心を動かせるような人物にならないといけないと思いました。政治には、白か黒か答えを出せないことが多い。そのなかで、『あの人が言うんなら』と思ってもらえるような政治家になりたい」  最後に、今後4年間、政治家として活動していく上での意気込みを聞いた。 「我々の政党は4年間で成果を出さなければ、消えると思っています。だから、成果をきちんとだす。自分の強みは、何かを提案したり、構想して、人を巻き込んでいく力だと思っているので、議会でも積極的に力を発揮していきたいです」  武蔵野市と東京都のパイプ役として、東京都の将来を創っていく旗振り役として、新人都議の仕事ははじまったばかりだ。 取材・文/河野 嘉誠
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