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芸能スクープの“イキすぎた取材・報道”は違法なのか? 弁護士・佐藤大和の見解

 人気俳優の小出恵介さんが、未成年の女性と飲酒し、好ましくない交遊があったとして問題となった。その事件は写真週刊誌の報道によって広く世間に知られることとなったのだが、“その報道がイキすぎたものではないか”という声もある。 「国民には知る権利があり、マスコミには報道する自由があります。しかし、その報道が人の権利や法律を侵害するにいたった場合、それは“イキすぎた報道”だと僕は判断しています」  そう語るのは弁護士の佐藤大和氏(レイ法律事務所、東京弁護士会所属)だ。国民の知る権利のために報道の自由がある。それは大事なことである。しかし、芸能人のゴシップ報道においては「本来の報道の役割・あるべき姿とかけ離れてしまっている場合もある」と佐藤氏は言う。 「一部のメディアは、視聴率や利益に向かって走ってしまっている。そのためブレーキがきかない、ということが大きな問題点だと思います」  弁護士であり、今年5月に芸能人の権利を守る「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」を設立した共同代表理事のひとりである佐藤氏に、芸能人・マスコミはどうあるべきか話を伺った。 佐藤大和-01

芸能人側もマスコミに対して声をあげるべき

「テレビや雑誌の報道でも名誉毀損で訴えられることはあります。芸能人側が裁判で勝った事例も珍しくありません。しかし、賠償金は数十万円から数百万程度で、一千万円を超えることは少ないといえます。その金額はテレビや雑誌が得る利益から見ると大した額ではない。つまり、報道するメディア側が裁判に負けてもビジネスのうえで大きな痛手とはならない。これは法での問題点だと思っています。名誉毀損的な報道に歯止めがきかないんです」  要するに、名誉毀損で訴えたとしても、イキすぎた報道を制限することにはつながらないのだ。 「報道することが悪いわけではありません。もちろん、芸能人であれ一般人であれ、不倫はよくありません。とはいえ、芸能人の不倫報道は、“公共の利害に関する事実”でもなければ、“公益を図る目的”にかなっているのか……全然かなっていませんよね」  佐藤氏は、テレビに出ている有名人だからなにを報道されても仕方がない、と片付けるのは間違っているのだという。 「マスコミの問題もありますが、芸能人側もしっかりとした意識を持たないといけない。ときにはマスコミにクレームを入れるなど、もっと声をあげるべきなんです」

“人を傷つけるだけの報道”の是非

 とはいえ、芸能人にとって、訴訟を起こすことにはリスクがつきまとうのではないか。 「たしかに、裁判を起こすのは勇気がいる行動です。裁判を起こせば、『扱いにくい芸能人』というレッテルが貼られてしまう可能性が高い。ネガティブなイメージがついてしまい、CMやテレビ出演も制限されてしまう。裁判中の芸能人を積極的に起用するようなスポンサーなどいません。だからこそ、一部のマスコミはそこにつけ込んでいるのでは。もっとも、悪質な報道や名誉毀損的な記事に対し、やはり芸能人はもっと声を上げるべき。そのためには、むしろ声を上げることがイメージアップするように、世論やメディアが後押しをする雰囲気を作っていかなければなりません。私たち日本エンターテイナーライツ協会でもそういった雰囲気を作っていくために尽力します」  すべての芸能人ではないが、まだまだ芸能人はどんな報道があっても何も言えない状況にあり、これを変えていかなければならない。果たして、“面白ければなんでもいい”という風潮は正しいのか。テレビに出ている芸能人だからといって、プライベートまで含めて、すべてを公に出していい、というわけではないはずだ。  佐藤氏は、人を傷つけるような報道の仕方にも苦言を呈する。 「例えば、芸能人の不倫報道をするとき、相手の情報まで公にしてしまうことがある。不倫現場のセクシーな写真を雑誌に掲載される場合もあります。これはマスコミがリベンジポルノ、犯罪に加担していることになるんです。報道だからといって、人の精神を壊すことを無作為にやっても許されるわけではないんです。そこに正義はなく「悪」しかありません。例えば、『芸能人が薬物を使用している』ということを報道するのは、社会正義として正しいことかもしれません。その取材には取材の正義があるかもしれません。とはいえ、一部の報道を見ていると、そこに正義ではなく、単純にビジネスが優先してしまっているようにも感じます。芸能人も人間です。普通の人と同じように生活をおくっています。些細な言葉で傷つくし、ちょっとした攻撃でも泣く。そういったこともわかってあげてほしい」
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イキすぎた取材・報道に対する法律的な見解
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