イキすぎた取材・報道に対する法律的な見解
これまでの芸能史を振り返ってもスキャンダルと呼べるものは年に数回程度だった。
「かつては芸能人の不祥事を公にさせないために事務所の圧力が強かったことは周知の事実です。しかし、現在では歯止めがきかない状態にあります。裏を返せば、現在では逆転現象が起こっているとも言えます」
最近では異常なほど多くの芸能人の事件が報道されている。佐藤氏がこう指摘する。
「よく『ペンは武器』だと言いますが、人を傷つけるだけの“凶器”になってはいけません。つまり、“
歯止め=ルール”が必要です。一歩間違えれば犯罪行為。例えば、書いた内容によって名誉毀損になり、違法となる。にも関わらず、そのことに対する意識が低いのではないかと感じることもあります。すぐに不倫はダメだ、薬物は犯罪だ、と囃し立てるが、そもそも
取材や報道において法律を犯しているメディアも少なくありません」
ゴシップ誌においては、芸能人の隠し撮りや密かに会話を録音する、LINEのやり取りを流出させるなどのケースも見られる。世間では「やり過ぎなのでは」という声もあった。では、前述のようなマスコミの取材は、法律的な部分ではどうなのか。佐藤氏に聞くと、意外な答えが返ってきた。
「プライバシーの侵害にあたる可能性があります。しかし……
プライバシーの侵害は、基本的には違法ではあるが、犯罪ではありません。報道側が慰謝料を取られることはあるでしょう。その金額は数十万円程度。やはり、利益から考えたら微々たるものなんです」
だからこそ、マスコミのペンが単なる凶器とならないようにルールが必要だと訴える。犯罪ではないからといって、なにをやってもいいわけではないのだ。
芸能人が刑事事件となった場合でも、有罪の判決が出るまでは犯罪者ではない。しかし、
一部のマスコミでは犯人と断定したうえで報道している。佐藤氏は、この行為も慎んでほしいと訴える。
「安易に報道し過ぎです。犯人として報道した後、実は無罪だったことがわかってもなにもフォローしないのでは、その芸能人のイメージは回復しないでしょう。また、仮に犯人だったとしても、再起の道を報道が台無しにすることもあるんです。そういった現実があることは意識しておいてほしい。これは一般人であっても同様です」
では、我々を含めてマスコミの報道はどうすればいいのだろうか
「単純です。法律を守る、のひと言です。
コンプライアンス、法律を破ってまで、相手の芸能人が訴えないから記事にする、というのでは、犯罪行為、違法行為に加担する行為だと思っています。それは絶対に許したくはありません。むやみやたらと人を傷つけない範囲で取材してほしい」
いま芸能人報道の見直しが必要な時期にあるのかもしれない。佐藤氏や日本エンターテイナーライツ協会では今後「マスコミのルール作り」にも取り組んでいくそうだ。
【佐藤大和(さとう・やまと)】
1983年、宮城県生まれ。レイ法律事務所代表弁護士。立命館大学法科大学院卒業。2014年にレイ法律事務所を設立。代表弁護士となる。著書『ずるい暗記術』『ずるい勉強法』(共にダイヤモンド社)、小説『二階堂弁護士は今日も仕事がない』(マイナビ出版)、新刊に『
超楽仕事術 ラクに速く最高の結果を出す「新しい働き方」』(水王舎)がある。フジテレビ『バイキング』にコメンテーターとして毎週月曜日レギュラー出演中。
<取材・文/大橋博之、撮影/藤井敦年>