騒音トラブルは“音量公害”ではなく“感情公害”。解決するには?
近所づき合いが消えたこともその大きな要因だという。
「日本はかつて隣近所の音が筒抜けの社会でしたが、地域の人間関係が希薄になると、昔は当たり前だった音が今は『煩音』と認識される。特に都市部では『お互いさま』はもう死語ですから、今後も騒音事件は続くでしょう。昨今、保育園の騒音問題が増えていますが、住宅地にありながらクレームがゼロの園もあります。そこの園長は『手っ取り早いのは、園の餅つきイベントへの住民招待。来られなかった住民には園児が餅を配りにいく。これだけでクレームはなくなります』と言っていました。つまり、人間関係の構築こそがトラブル解決の要なんです」
騒音トラブル増加の背景には、こうした希薄な人間関係に加え、警察や役所が頼りにならず、音を出す人と苦情を言う人との間を取りもつ仲介者がいないことも大きいのではないだろうか。
「アメリカには州が予算を出してNJC(近隣司法センター)という制度がつくられています。これは、住民同士の小規模紛争をボランティア調停員が法廷外で解決するものです。ラスベガスのNJCでは、十数人の有給スタッフのほかに、退職者を中心としたボランティア約100人が登録され、厚さ10cmもあるマニュアルを使って47時間のトレーニングを受けていました。修了すればボランティア調停員として近隣トラブル(騒音に限らない)の調停に当たるのです。そこでは当事者同士が、双方が納得できる解決策を導き出すまで徹底的に話し合う。調停員はあくまでもその建設的な話し合いを進める助言に徹する。その結果、およそ8割のケースで和解しています」
今年3月に大学を定年退官した橋本代表の現在の目標は、日本版「近隣トラブル解決センター」の設立だ。
近所がうるさい!』(ベスト新書)など。
取材・文/樫田秀樹 写真/時事通信社
― [騒音トラブル]で殺されない方法 ―
「予算が要るだけに、自治体の制度としてやらねば始まりません。どこか一つでも始めれば、必ず全国に伝播すると思うのですが……」
センター利用の利点は多い。法廷闘争ではないので無料であること、互いが納得できる解決方法が導き出されること、そして自治体にとっては近隣トラブル対策にかける出費を抑えられることだ。ぜひ、日本でも実現してほしい。
【橋本典久氏】
’51年生まれ。騒音問題総合研究所代表、騒音ジャーナリスト。専門は音環境工学で、特に建築音響、騒音振動、環境心理。著書に『1
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