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堂々完結! 英語力ゼロだったバツイチおじさんが世界23か国、2年と8か月も続けた「世界一周花嫁探しの旅」をやめる本当の理由〈最終話〉

その一番の理由は『お金』です。 物書きのプロではない俺は非常に遅筆、つまり書くのが遅く、一本の連載を書くのに早くて10日間、遅い時は20日はかかってしまいます。もちろん、書いてない時間は旅で出会った旅人と遊んだり、パソコンの前でダラダラとしているのですが、1日2~3時間は必ずパソコンの前に座って何文字かは書きます。インドのように一泊200~300円前後の安宿に泊まってる時はいいのですが、ヨーロッパなどでは一番安いドミトリーでも一泊1500円くらいはします。場所によってはドミトリー代が一泊3000円ちょっと。連載のために20日滞在したとして、1500円×20日=30000円。ほかの生活費に関しては、外食費も高く自炊を混ぜたとしても移動費込みで1日2500円。2500円×20日=50000円。 単純計算ですが、一本の連載を書くのに30000円+50000=80000円の経費がかかってしまいます。編集部から多少原稿料はいただいてはいますが、それを差し引いても大赤字です。 連載の最初のほうは手持ちのお金も多少余裕があったため、作品づくりのためと自腹を切っていましたが、3年近くも旅を続けている今、旅の資金がほとんどなくなってしまいました。もちろん、自己投資のためとはいえ語学学校で大金を使ってしまったのも大きな原因です。実は、恋物語の連載なのでお金の部分をあまりクローズアップして書きませんでしたが、皆さんが思っている以上に貧乏なのです。 外国人ドミなどでつい置きっぱなしにしていた歯磨き粉をパクられたら、ブチギレて一人ずつ尋問し、犯人を探します。 靴下に穴が空いたら半日は落ち込んでしまいます。 移動費を削るために22キロのバックパックを背負って5~6キロぐらいなら平気で歩きます。 エジプト・アスワンの宿も47度の暑さでしたがクーラー付きの宿なんて泊まれません。 現在、滞在しているスーダンでは疲れとウィルスで足が腫れ上がり痛くて立てない状態ですが、保険が切れてしまっているため病院には行っていません。 それでもプロとして始めた仕事なので最後まで続けなければならない。いや、お金にならないならプロの仕事じゃないか。いや、読者のためにも最後まで書かなきゃだめだろう。毎日が葛藤の日々でした。もし、これが仕事で海外ロケや取材として、予算を組んでもらいながらの旅なら、困難な状況に多少の不満はあるだろうけれども、「これは仕事だ!」と割り切って商品作りを遂行するでしょう。だけど、今回は自腹を切っての作品づくりの旅なのです。現在、アフリカ大陸縦断です。予算を削れば削るほど命に危険が降りかかってきます。 インドのダラムシャラーで出会った日本人の旅人から聞いた話ですが、その彼女がアフリカ縦断中に出会ったヨーロピアンの白人カップルと旅をしていた時のこと。宿の周りに金網の塀がある安全なドミトリーに宿泊していたのですが、白人カッップルが金網の塀の入り口に入る時、現地人にピストルを突きつけられたそうです。彼氏が彼女を守るため抵抗したのですが、頭を撃ち抜かれて亡くなってしまったと。部屋の中に「きゃー」という断末魔にも似た叫び声が聞こえたそうです。その後、その旅人は安全なマダガスカル島に移動したのですが、彼女の悲鳴が頭から離れず、アフリカ縦断、ひいては世界一周を中断して日本に帰国したと言います。 ロンドンで出会った旅人は南アフリカのヨハネスブルクを日中歩いている時に、胸にかけてあるパソコン入りのサブバックをひったくられたそうです。彼はベテランの旅人なので、大声で「荷物を盗まれた! 取り返してくれー!!」と叫んだそうです。すると、周りの人が犯人を捕まえてくれたまではいいのですが、皆が持ってたこん棒のようなもので犯人を袋叩きにしたといいます。犯人が途中から気を失い、目は白目になり、口から泡を吹き、ほぼ死にかけている状態に。その光景にあっけにとられ恐怖に怯えていると、捕まえてくれた一人が彼の元にやってきて、彼にこん棒を差し出しこう言ったそうです。 「君がトドメをさして殺せ!」 当然、彼は「警察を呼んでくれ!」と言って拒絶したのですが、彼の話ではきっとそのひったくりは死んだだろうとのことです。そんな話を聞けば聞くほど、アフリカ縦断はお金が命の安全と深く関わってくるなと再認識させられます。節約のため宿や交通手段のクオリティーを下げればそれだけ危険度も増すでしょう。 まして今回のアフリカ縦断は、アメリカからテロ指定国家に指定され経済封鎖中のスーダンや、近年もテロや海賊が頻発し長年無政府状態が続いたソマリアなど危険な国への旅も計画に入っています。エジプトに入ってから、恐怖で寝れない夜が何日もありました。夜中にふと目が覚め、 「なんで俺はそんな危険な国に行くんだろう?」 「死ぬんじゃないか?」 「入国する前に母に伝えるべきか? やめるべきか?」 そんなことを何度も考え続けました。 しかし、もう大丈夫です。恐怖を乗り越えました。やはり、 「情報が少ない国の人々の生活や表情が見てみたい。彼ら彼女らが何を考え、どう生きてるのかを知りたい!」 安全を確保するためにもこれ以上連載でお金を浪費したくありません。 そして二つ目の理由は『時間』です。 モロッコに来てくれた親友の金泉の言葉を(連載第2話)から引用します。離婚直後、自分を見失っていた時の話です。 ※         ※         ※        ※         ※ 「俺を漢字一文字で表してほしい」とお願いしまくった。 友達の一人は戸惑いながらも「時」と答えた。 どうやら時間の感覚が人と違うらしい。 高校時代のバスケ部の得意技もフェイク。時を操ろうとしていたようだ。 仕事で五日間平気で徹夜とかするし、酒を飲み出したら異常に長い。 みんなが帰る瞬間に「から揚げもう一個!」って頼むらしい。 どうやら俺は時の感覚が少し狂っているようです。 ※         ※         ※        ※         ※ 元々1年間で終える予定だった世界一周の旅も気づけばもう3年弱。自分でも気づいているのですが、俺は何かに集中すると「時の感覚」を忘れてしまうのです。テレビの企画会議の時も10時間以上、ほぼノンストップで考え続けることもザラです。朝トイレに行きたかったことを忘れ、夜に思い出すこともあります。自分で「面白い!」と納得するまで思考が止まらなくなるのです。この連載もそうです。何度も書き終えては書き直し、部屋でダラダラしている時や観光や街歩きをしている時もずっと、このエピソードをどうまとめようかと考え続けてしまいます。そして、あーだこーだ考えているうちに1週間、2週間とあっという間に時間が経ってしまいます。物書きのプロではない俺は、テレビのドキュメンタリーバラエティーを編集しているような感覚で一回頭の中で映像編集しています。それを拙い言葉で文章に落としていくのですが、テレビと圧倒的に違うのは、毎週締め切りに追われることがないので「面白い!」とたどり着くまでいくらでも時間をかけられることです。また、書き出したら自分が思いもしなかった結末になることもあります。これが面白くて面白くてしょうがない。文章の中を自由に旅している気分になるのです。 これだといくら時間があっても足りないはずです。月20日の時間をかけ、80000円の出費を出してしまうのは、俺自身の「時間感覚のズレ」から生じるものなのです。バックパッカーをやった方ならわかると思いますが、20日という時間と80000円あれば少なくとも2か国、素早く回る旅人なら3~4か国を回れるコストだとおわかりになるでしょう。連載を止めて、世界のいろんな場所を見たい。もっと多くの国に行きたい。仲良くなった仲間と旅をしたい。でも、連載を書かなきゃ。せっかく今まであったものを全部捨て、自腹を切って旅をしているのに、自分の旅ができないなんて……。結局、自分の旅を選ぶことにしました。
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三つ目・四つ目の理由
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