堂々完結! 英語力ゼロだったバツイチおじさんが世界23か国、2年と8か月も続けた「世界一周花嫁探しの旅」をやめる本当の理由〈最終話〉
そして三つ目の理由は『お母さん』です。
うちの母はもう75歳です。大分県に住んでいてずっと俺の帰りを待っています。離婚して無気力になった俺のためにわざわざ大分の田舎から東京に駆けつけた母。(第3話参照)
※ ※ ※ ※ ※
俺は覚悟を持って切り出した。
俺「……俺、離婚したんよ。先月」
母「……」
俺「心配かけるけん、言えんかった」
母「……」
俺「……ごめんな」
母は一瞬動揺した顔を見せた。
しかし、すぐにその顔を、その心を、立て直し気丈な顔を作った。そして……
母「ははははは!」
母は笑った。
母「なんか、そげなことかえ! 気にせんでいいいわ。実はな、なんとなく気づいちょったんよ!!」
※ ※ ※ ※ ※
どんな時も俺の味方でいてくれるお母さん。
いつも優しいお母さん。
大好きなお母さん。
そんな母が俺の帰りを、首を長くして待っています。
「今年のお正月も大分に帰らんのかい。あんたがおらん正月は正月やねーみてーやわー」
「お母さん、最近元気がないんよ。帰ってきた時、昔みたいなパワフルなお母さんと思わんでな」
「隆一郎、私もあと何年生きられるかわからんけん、早く帰っておいで」
どうやら俺のことが心配で心配でしょうがないようです。少し病気がちでもあります。きっと会えなくてさみしいからだと思います。
「お母さんと一緒に過ごせる時間が人生であと何日あるのか?」
そう考えると、一刻も早く旅を終わらせてお母さんに無事で元気な姿を見せなければと考えます。もう余計な時間を使う暇がないのです。
実を言いますと、最終回3部作を除く今までの連載全41話は、旅が始まってまだ半年分しか書いていません。今はすでに2年9カ月。このまま連載を書き続けながら旅をするとさらに旅先で書く時間が増え、さらにいろんな素敵な出会いや別れを繰り返し、もっともっと刺激的な経験をすることで、その時間がネズミ講式に膨れ上がってしまいます。
このままだと、時間だけ言えば10年経っても日本に帰れないかもしれません。
もし、旅中に母が亡くなってしまったら……。
「きっとこの旅を一生後悔するでしょう」
四つ目の理由。それは『女の子』です。
もしこの連載を継続していたなら登場する予定だった女の子、つまり恋に落ちた女の子のことです。これが最終回でラブストーリーを書かなかった理由になります。
俺は女の子がとても大好きです。女の子がいるだけでハッピーな気持ちになれます。小中高の時から俺の周りにはいつも女の子がいました。女の子の声も好きだし、肌も髪も目も悲しげな表情も愛くるしい笑顔も大好きです。ズルい一面も、慈愛に満ちた優しさも大好きです。別に日本人に限りません。世界の女の子も日本の女の子も変わらず素敵だということにこの旅で気づきました。本当に本当に女の子が大好きなんです。
いや、大好きでした。
正確に言うと大好きだと思っていました。
しかし、旅を続けるにつれて自分自身の心に潜むある事実に気づきました。
俺は女の子が大っ嫌いなようです。
女の子を憎んでいます。
実は女の子が怖いのです。
なぜそう思ったのかは割愛しますが、旅が進むに連れ、そう確信するようになりました。離婚や旅で出会った女の子に深く傷つけられた。そんな理由ではありません。元から俺の心の奥底に潜む厄介な問題だと思います。きっと俺がワガママで自分勝手な挙句、嫉妬深く、相手の気持ちを深く考えてあげれない薄っぺらい人間だからだと思います。人よりも少しロマンチックで愛が深すぎるのかもしれません。いや、本当の本当は女の子の凛とした清い心を真剣に信じているのかもしれません。
もし、俺が本当の愛を知ったなら、女の子にもっと優しくなれるのかなと思います。
でもそれが何なのか? どうすればいいのか? 自分でもまだわかりません。この旅が終わるまでずっと自己内省し続けたいと思います。きっと俺の心の奥で静かに暮しているりゅうこちゃん(第35話チリ人美女ガルシア編を参照)がその答えを知っていると思います。
連載をやめる理由に「女の子」と書いたのには、もう一つの理由があります。
旅が始まった頃、この「世界一周花嫁探しの旅」はテレビのドキュメンタリーバラエティーのインターネット版だと割り切っていました。事件が起きればおいしいと思うし、可愛い女の子と恋に落ちれば、ここのパートは使えるなと思い、フラれた、今回は酷いフラれ方をした、企画的においしいな、そんなことを思っていました。しかし、旅の途中から「一緒に旅している女の子に失礼だ」「こんな恋をしてはいけない」と思うようになっていました。
想像してみてください。一緒に旅している最中、その相手がずっと自分自身を観察しているということを。もちろん、99%は二人旅を楽しんでます。だけど、25年間テレビのディレクターとして培ってきた「人間を観察する」という職業病は、治そうと思ってもなかなか治らない。どうしても両目のレンズでさりげなく、ドキュメンタリーの撮影をしてしまいます。この職業病を何度も何度も心の奥に鍵をかけ閉じ込めようとしてきました。だけど、そいつは時折ひょっこりと顔を出すのです。元嫁にフラれ、「もっともっと優しい人間になりたい」「人の気持ちがわかる人間になりたい」という理由で始めた旅なのに、連載を書けば書くほど嫌な人になっていくような気がしました。
プロとして、プロテレビマンのごっつは「書けよ!甘えんなよな」と言います。25年間のテレビ人生で自分のポリシーで番組を辞めた以外、一回も逃げ出したことはありません。『天才たけしの元気が出るテレビ』から入ったAD時代も、始めの数年間は「1年間に数日しか家に帰れないような生活」でした。ミスの罰として全裸で働かされる、頭を剃られマ●コマーク型の髪型にされる。全裸で市ヶ谷の街に放たれ、空気銃を持ったディレクターから逃げるという罰もありました。だけど、当時の軍隊のようなAD時代からも決して逃げ出さす、何とかディレクターになりました。
「面白いものを作らない奴は人間じゃない!」
そのためには…
「自分がもっと面白い人間にならなきゃならない」
そういう教えを受け、番組作りに邁進してきました。ところが、「世界一周花嫁探しの旅」の途中から、「あれ? それってもしかして違うんじゃないの?」と思うようになってきました。面白いものを作るには自分が面白い人になるのではなく、「相手の心を繊細に感じリスペクトできる、謙虚で静かな人間にならなければならないのではないか?」と思い始めたのです。
世界の旅先で出会う旅人は100人いれば100人違う理由で旅に出ています。失恋旅行の人もいれば、人生を探している、語学の勉強に来ている、ただ旅をエンジョイしたい人もいます。同じ予算で数か国しか回らずじっくりと現地の人と仲良くなる人もいれば、足早に数十か国の観光地を回る人もいます。どちらが面白い旅か? そう比べたりすることに意味はありません。各自の旅の仕方を尊重しなければならないということに気づきました。
なぜならその人の旅はその人の人生を映し出してるのからです。
どういうルートを選び、どれだけ時間をかけ、どれだけのお金をかけるか。どこに興味を持ち、何を捨て、何を残すか。旅の軌跡は人の生き様。人の旅をリスペクトするということは、人の生き方をリスペクトするということなのです。そのことに気づいてから20以上歳の違う世界中の旅人とも心の通った友だちになることができるようになりました。現地の人もすんなり仲良くなれるようになってきました。
話は逸れましたが、そういうことが自然とできるようになってくればなるほど、「世界一周花嫁探しの旅」に登場してくる女の子の気持ちが、痛いほどわかるようになってきたのです。一人旅をしている女の子には恥ずかしがり屋の人も多く、彼氏を残して旅に出ている、好きな人がいる、そんな娘も多いです。そんな微妙な気持ちで旅してる女の子のことをズケズケと書くことが心苦しいのです。そんなデリカシーのない俺に恋などする資格はありません。
「何をいまさら!」
「気づくのが遅すぎねー?」
読者の皆さんのそんな心の声が聞こえてきます。熱心なファンの中からTwitterやInstagram、Facebookなどでたくさんの励ましの言葉や、連載が遅れることによる叱咤の声もたくさんいただきました。中には同じように離婚をしてしまい「ごっつさんの連載だけが生きる望みです」というような心に突き刺さるような熱い投稿もありました。旅先で一人孤独の淵を彷徨っている時、そういう声に励まされ、這い上がって来れたのも事実です。愛読していただいていた方には感謝の気持ちでいっぱいです。
プロとしてのごっつは「こんだけ応援してくれてる人がいるんだから書けよ!」と叱咤します。ただ、ごっつになる前の後藤隆一郎が「相手の気持ちをよーく考えてみて。ね、やめようよ!」と、書こうとする俺を引き止めます。人生を背負って旅をしている女性に、俺のエゴは全く関係のない話なのです。
「なので、愛読者の皆様より女の子の気持ちを選びます。すみません!」
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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