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洋楽メタルを聴かなくなった日本の若者たち――原因はサッカーのサポーターのゴミ拾いか?

若者にとっての「俺たちの音楽」は何か?

 仮に筆者が今20歳だったら、同世代の友人が聴かない洋楽メタルを聴くことはなかっただろう。おそらくアニソンや声優ソングを聴いていたと思う(笑)。というのも、今の時代はそれらを聴くことが恥ずかしくなく、しかも友人らとのコミュニケーション・ツールとして汎用性が高いのだ。  そしてもうひとつ、若者にとっての「俺たちのもの」とされる音楽がある。それが、「愛国ソング」だ。  3年ほど前のこととなるが、湯川れい子という音楽業界の有名人が、ツイッターで「ネトウヨさんは洋楽聴きませんからねぇ」(2015年8月9日付)とつぶやいて、盛大に叩かれた。メディアで活動する立場の者が、「ネトウヨ」というヘイトラベリング造語を使っているのだから、叩かれて当然だろう。このヘイト発言から、洋楽を聴かない者は「ネトウヨ」であり、蔑んでいいという考えも読み取れる。裏を返せば、洋楽を聴く者は左派で尊ばれる存在という考えが透けて見える。  平成の半ば頃まで、「左派を尊び右派を蔑む」「反体制」というスタンスは、音楽だけに限ったことでなく、日本社会の常識とされてきた。しかしそのスタンスは、上の世代の人口の多さや、左派マスメディアの強大な影響力、戦後からずっと常識とされ続けてきたことから、到底「反体制」と言うことはできず、むしろ「体制」側に転じてしまっていたのである。  であれば、下の世代…つまり若者は、その「体制」に抗う「反体制」のスタンスを採らざるを得ない。最近起こった「愛国ソング」騒動は、その象徴と言えよう(連載第33回参照)。つまり今の若者にとって、Jポップ・アーティストが歌う「愛国ソング」は、「俺たちのもの」なのだ。さて洋楽に、アニソンや声優ソング、そして「愛国ソング」などのような、若者に必要とされる要素や、若者の心に訴えかける物語が、果たしてあるだろうか……。

洋楽市場生き残りの方策はあるのか

 上の世代は、かつて自分らが好きだったものに執着し、新しいものを受け入れない傾向が強い。そして下の世代は、そんな過去のものに付き合わされたくない。下の世代に言わせれば、「上の世代が好きだった洋楽なんて聴きたくないよ」「僕らの文化ではないよ」といったところだろう。日本において洋楽は、政治思想的にも、世代闘争的にも、ウザったい上の世代のものとみなされ、若い世代からは、忌諱されるものになっているような気がしてならない……。日本社会の動きから考えると、洋楽がこの先、息を吹き返すことは非常に困難と言えそうだ。  とは言え、国内の洋楽市場が、すぐさま絶滅することもないと思われる。フェスティバルという形での開催は行なわれずとも、海外メタル・バンドの単独公演は増えているようだし、上の世代の懐具合は、若い世代と比べれば、圧倒的に豊かである。じわじわと衰退していくだけで、さほど気にすることでもないだろう。  いずれにせよ、洋楽市場の動向だけを見ても、答えは見えてこない。むしろ、音楽の外の社会の動きを見た上で、対策を講じる必要がある。そしてそれは、日本側イベンターおよびプロモーターだけではなく、日本市場で利益を得たい海外のアーティスト・マネージメント会社と手を取り合ってやるべきことであろう。
(やまの・しゃりん)漫画家・ジャパメタ評論家。1971年生まれ。『マンガ嫌韓流』(晋遊舎)シリーズが累計100万部突破。ヘビメタマニアとしても有名。最新刊は『ジャパメタの逆襲』(扶桑社新書)
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ジャパメタの逆襲

LOUDNESS、X JAPAN、BABYMETAL、アニメソング……今や世界が熱狂するジャパニーズメタル! !  長らくジャパニーズメタルは、洋楽よりも「劣る」ものと見られていた。 国内では無視され、メタル・カーストでも最下層に押し込められてきた。メディアでは語られてこなかった暗黒の時代から現在の世界的ブームまでを論じる、初のジャパメタ文化論。★ジャパメタのレジェンド=影山ヒロノブ氏(アニソンシンガー)の特別インタビューを掲載!

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