発達障害者には営業職が向いている?
姫野:借金玉さんは現在、営業職に就かれています。借金玉さんの昔のエピソードからも伺えますが、取材で知り合った発達障害当事者の方々もコミュニケーションに苦手意識を覚えている人が多いですよね。それで会話が多くなる営業職を敬遠して事務職に就きたがる人が多かったのですが、借金玉さんは営業職に難しさを感じませんか?
借金玉:実は、営業職に向いている発達障害者が意外と少なくないと思います。成果型労働は、ゴールに至るプロセスで多少のミスをしても、結果さえ出せれば文句は言われない。だから、ケアレスミスが多いADHD(注意欠陥・多動性障害)の人や、上司などの指示に対して疑問を感じる傾向のあるASD(自閉スペクトラム症)の方にとって、自分のペースで働ける営業職は向いていることもあり得るんですよ。
姫野:営業職をやらず嫌いしている人は多いのでそのアドバイスは有益ですね。
借金玉:私は発達障害を持つ知人には「営業を怖がるな!」って言ってます。もちろん、発達障害にもさまざまなケースがあるので、「すべての発達障害者に営業が向いている」とは言えませんが、苦手意識は持たずにチャレンジしてみてもいいんじゃないかと思いますね。大体の人がいの一番に避ける業種でもありますし。
姫野:私は新卒で入った会社で3年間経理をやったんですが、本当にしんどかったんです。定時で帰れる仕事内容だったのに毎日ヘトヘトで、土日はずっと寝こんでいました。
借金玉:それはお疲れ様でした……その状態で3年も働いたら表彰ものですよ(笑)。私も銀行員をやっていた頃の土日は、月曜日が来ないことを祈りながら酒を飲むか、布団にくるまって延々と泣いてましたから。
この前、発達障害だと告白された勝間和代さんとの対談でも話しましたが、彼女は会計事務所を半年で退所したそうです。ADHDでケアレスミスの多い人やLD(学習障害)があって計算が苦手な人は、会計や経理はまったく向いてない。ただ、ADHDやASDと違ってLDは見逃されがちですよね。
姫野:LDなのに知的障害者だと誤解されて、職場や人間関係で悩んでいるというケースは多いですね。
借金玉:私も『発達障害の僕が「食える人」に変わった-すごい仕事術』の執筆にあたって当事者取材をしたのですが、本当に大変でした。途中で連絡がつかなくなるのはザラですし、取材相手に依存されてしまって困ってしまったこともあって。これだけバラエティに富んだ当事者たちに取材するのはしんどかったでしょう?
姫野:実は、それほど大変だとは感じませんでした。でも、精神的に辛くなったのはASD(自閉スペクトラム症)をかかえ、何度も転職を繰り返し、自殺を考えてしまった女性。彼女のお話にはかなり感情移入してしまいましたが、他の方については、ある程度の距離を保って、冷静に書けたかと思います。
借金玉:たしかに姫野さんの文章は淡々としていて当事者に寄り添いすぎず、描写に徹しています。そもそも、なぜこの本を書こうと思ったんですか?
姫野:近年、NHKの特集番組をはじめとして発達障害の話題を耳にすることが多くて、「私も発達障害なのかな?」とうっすら思ったのがきっかけです。今回の書籍の担当編集や友人にも「姫野さんは普通じゃない」と言われます。もちろん彼らはいい意味で言ってくれてるんですが、そもそも「普通ってなに?」っていう疑問もあって。だから、この言葉は帯にも入れてもらいました。
借金玉:僕も発達障害にまつわる本をいろいろ読んできましたが、姫野さんのようにイデオロギーや主張を省いて、事例紹介に徹した本はほかにないと思います。
姫野:東洋経済オンラインでの連載開始当初は発達障害についてほとんど知らなかったんです。勉強しながら取材を重ね、当事者の方々の生きづらさを理解したので、目の前の当事者の言葉を丁寧に聞きとることに集中できたんだと思います。
それでも、私は「自分は定型発達(発達障害ではないこと)」だと信じて疑いませんでした。だから、取材相手に対して心理的に距離があったように思います。それが結果として、淡々とした描写につながっているのかもしれません。
借金玉:そんな姫野さん自身もWAIS-Ⅲ(発達障害傾向の有無を調べるテスト)を受けて、その様子が著書に描かれていますね。このときの動揺も正直に書いてあって、これはすごいオチだなと思いました。

|
『発達障害グレーゾーン』
徹底した当事者取材! 発達障害“ブーム"の裏で生まれる「グレーゾーン」に迫る
|
■姫野桂氏の新刊発売記念イベントが開催!
12月20日に姫野氏の新著『発達障害グレーゾーン』の発売記念イベントが開催される。特別協力として関わった「OMgray事務局」のオム氏、株式会社LITELICOの鈴木悠平氏を招き、3人が「発達障害っぽさを抱えて生きる方法」についてトークする。

【日時】12月20日(木)19時開演(18時45分開場)
【場所】神保町「書泉グランデ」7Fイベントスペース
【参加方法】姫野桂 著「発達障害グレーゾーン」(820円・税別)を1Fでご購入いただいた方に、参加券を配布(定員50名)
【予約】電話(03-3295-0011)・メール(grande@shosen.co.jp)で予約可能
*詳しくは書泉グランデHPで(
https://www.shosen.co.jp/event/89535/)