ウイスキー通なら知らないと恥ずかしい「天使と悪魔の話」
― 30代が知らないと恥ずかしい! 今さら聞けないお酒のキホン第15回 ―
ウイスキー通ならご存じかもしれませんが、ウイスキーはオーク材でできた樽に入れて熟成します。樽はミリ単位で調整され、きっちりタガをはめてあるので漏れないようになっています。
とはいえ、木材なので呼吸をするように空気は出入りしています。そのため、ごくわずかずつですが蒸発していきます。熟成庫の気温や湿度、お酒の熟成年数にもよりますが、年に1~10%ずつなくなっていくのです。
この減ってしまったぶんのことを「エンジェルズシェア」、つまり天使の取り分と呼びます。粋なネーミングですね。このエンジェルズシェアは、50年もののウイスキーなどでは、半分以上になることもざらです。長熟のウイスキーが高くなるのも理解できるでしょう。ちなみに、個人用の安価な樽にウイスキーを入れると1年も経つと100%蒸発してしまったり、最悪漏れることもあります。個人でウイスキーを樽に入れるなら、きちんとした品質の製品を選びましょう。
熟成環境の湿度が高ければアルコールが先に蒸発してアルコール度数が下がることがありますし、乾燥していると水分が蒸発してアルコール度数が上がることがあります。とはいえ、どちらにせよ大幅に変化することはありません。
樽に入れたお酒が減るのは、蒸発だけとは限りません。バーボンウイスキーは新品の樽を使うことが決まりなので、ウイスキーを入れると木材に染みこみます。このぶんのことを「デビルズカット」、つまり悪魔の取り分と呼びます。
こちらはわずかながら取り返すことが可能です。ウイスキーを取り出した空樽に水を入れて振るのです。シャンプーを使い切るときにやるのと同じ方法ですが、ジムビーム蒸留所が特許を取っています。バーボンは出荷時に水を入れてアルコール度数を調整するのですが、ジムビームではこのデビルズカットを取り出した液体を調整に利用した「ジムビーム デビルズカット」という商品を販売しています。通常のジムビームと比べると複雑な香りで、味わいはビター。より樽感を楽しめます。
「ジムビーム デビルズカット」は「第22回インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)2017」で金賞を受賞しており、その味には定評があります。価格は2000円前後なので、自宅飲みでも気軽に試せます。
というわけで、今晩はバーボンのロックで、コーンのパワフルなパンチを楽しんでみてはいかがでしょうか。 <文/柳谷智宣>お酒を毎晩飲むため、20年前にIT・ビジネスライターとしてデビュー。酒好きが高じて、2011年に原価BARをオープン。2021年3月には、原価BAR三田本店をオープンした。新型コロナウイルス影響を補填すべく、原価BARオンライン「リカーライブラリー」をスタート。YouTubeチャンネルも開設し生き残りに挑んでいる
取り戻せない天使の取り分と取り戻せる悪魔の取り分
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