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普通のおっさんの僕、“イケメンおっさん”に格の違いを見せつけられる――patoの「おっさんは二度死ぬ」第48回

僕らとは明らかに別人種な”イケメンおっさん”

 僕が所属する町内会は、年に数回くらい、けっこうな早起きをして美化活動をするという、ぐうの音も出ない善行、みたいな活動がある。それとは別に、その美化活動の進捗を確認し合う会合みたいなものが公民館の会議室を借り切って行われるのだ。  その美化活動の委員長が柳田さんというおっさんなのだけど、これがまあ、イケメンなのだ。系統的には草刈正雄に近い感じで、かなり整った顔立ちだし、体型もスマート、おまけにオシャレときたものだ。そしてほのかに香水の匂い。全てを手に入れしおっさん、みたいな存在だ。  この美化活動はマダムの参加が多いのだけど、柳田さんは完全にマダムの心をも虜にしている。  柳田さんが書類を配布する所作にうっとり、進捗報告をする柳田の声にうっとり、帰り際に「おつかれさま」と言ってニコッと見せるスマイルにうっとり、といった塩梅だ。マダムたちにとってはもはや美化活動なんぞどうでもいい雰囲気があり、さながら柳田活動みたいな状態になっているのだ。  柳田さんは、会が始まる前に挨拶をする。「美化とは、美しく変化させることなのです」とかいう。それにマダムが「深いわ~」みたいな顔して頷く。言っておくけど、けっこう普通なこと言ってますからね。うどんは麺類って言ってるのとそう変わらないですからね。 「柳田さん素敵だわ~、恋しちゃいそう」  マダムはけっこう直球だ。内角を抉るように直接アタックしてくる。 「いや、私なんてもうもうおじさんですよ~」  柳田もまんざらでもないといった感じで対応し、おっさんムーブを見せる。 「そんなことない、他の人とは大違い!」  マダムは断言する。他の人(僕とその他多数のおっさん)が見ている前でそう断言する。 「いや、ほんとおじさんですよ。腰とか痛いですし」  はんっ!  おっさん自虐が「腰が痛い」か! 片腹痛いわ。こちとらな、腰なんてとうに破壊されつくしてるんだよ。それに全然関係ないけど、朝起きると枕から知らないおっさんの臭いがするんだよ。なんだよあれ。どうせならこれくらいのおっさん自虐を見せて欲しい。  このように完全無欠のイケメンおっさんで、欠点は、そのぬるいおっさん自虐くらいかと思われた柳田さんだったが、とんでもない欠点があったのだ。柳田グルーピーのマダムたちも震え上がるとんでもない欠点があったのだ。
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完全無欠と思われた柳田さん、やらかしまくる
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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