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普通のおっさんの僕、“イケメンおっさん”に格の違いを見せつけられる――patoの「おっさんは二度死ぬ」第48回

完全無欠と思われた柳田さん、やらかしまくる

 柳田さんは町内の美化活動を取り仕切る委員長だ。会合では掃除が難しい場所の掃除方法の確認や、クレームがあった際の詳細な説明がなされることが多い。そうなると、文字だけで状況を伝えるのが難しいので、柳田さんが作ってきた図をまじえて説明することがあるのだ。だから、配布される書類にはいくつかの図が載っている。  で、どうやら、そういった概略図やイラストなどのことを「ポンチ絵」ということがあるようなのだけど、柳田さん、説明をしながらこのポンチ絵に触れる時、明らかに言い間違えてる。おそらく、間違えて覚えてしまっているのだろうけど、そう、みなさんが期待する間違え方をしている。 「こちらの清掃方法ですが、右のチンポ絵をご覧ください」  え? いまチンポって言った? 確かに生殖器の名称を言ったよね!?  焦って周囲を見回すのだけど、マダムたちを筆頭に全員が涼しい顔だ。まるでそこには初めからチンポなど存在しなかったかのような顔だ。いや、存在してないんだけど。  もしかしたら僕の聞き間違いだったのだろうか。僕がそう言う下劣なことばかり考えているからそんな聞き間違いをしたのだろうか。そうだ、そうに違いない。あんなナイスミドルが「チンポ」なんて公の場で言うわけがない。悪いのは僕の脳だ。このピンク色の脳が悪いのだ。  書類の先を眺めていくと、もう2つほど段落を進んだところにもポンチ絵があった。たぶん柳田さんがいらすと屋から取ってきたと思われるポンチ絵があった。ここではっきりする。柳田さんと僕、果たしてどちらの脳が「チンポ」に支配されているかだ。 「それでは、次に来期の体制ですが……」  問題の部分に差し掛かる。胸が高鳴った。どっちのチンポだ!? 「右側のチンポ絵をご覧ください」  柳田がチンポだーー!  さすがに今のはけっこうハッキリ言ったので、数人が気づいたらしく苦笑いしていた。  こうしてこの日の会合はチンポだけを残して終わったが、問題は山積だ。まず、柳田さんのチンポが故意なのか、それとも純粋な間違いなのかという問題だ。普通に考えて故意はあり得ないと思うが、純粋な間違いだった場合、今後もそれは続き、会合の度にチンポが現出してくる事態になりかねない。  これがいつも対峙している普通のおっさん、いわゆる持たざるおっさんであるならば「チンポ絵じゃなくてポンチ絵だろ、げはははは」くらいのツッコミで事なきを得るが、相手はイケメン柳田さんだ。いわば別種のおっさんなのでなかなか指摘しにくい。  それとなく伝えた方がいいのか、それとも完全に放置しておいたほうがいいのか、悶々としながら歳月が過ぎ、また美化活動の進捗報告会がやってきた。ついに指摘できないままその日を迎えてしまった。 「できればポンチ絵がない展開が望ましい」  配られた書類にポンチ絵がなければ万事解決である。ままよ! という気持ちで書類に目を通した。 「あった」  いらすと屋さんで彩られたチンポ絵、じゃないや、ポンチ絵が、中段に1枚あった。これでこの場にチンポが現出することが決定的となった。 「すいません、ちょっと私の書類、ポンチ絵がかすれちゃって見えにくいので新しいの貰えますか」  坂の上に住む坂下さんが手を挙げて言った。ナイスプレイだ。やるじゃん坂下。それとなくポンチ絵と言って間違いを指摘している。これで柳田さんも気が付くはず。よってこの場にチンポは現出しない。ホッと胸を撫で下ろした。
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柳田さんもやっぱりおっさんだった。と思いきや……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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