更新日:2023年04月13日 01:46
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おっさんは面白くもないのに同じボケを何度もしつこくやる――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第54話>

やがておっさん二人で天丼の応酬に

 「もう坂口杏里はどうでもいいじゃないですか」  「そういうわけにはいかない。ここははっきりしとかないとな。ウエストを59と詐称するより悪質だ」  ビア樽みたいな人がウエスト59と詐称する方が悪質だと思いますが、どうやら馬場さん的にはこちらのほうが悪質らしい。  あまりに馬場さんの天丼がしつこいので、頭に来た僕は途中から同じように天丼を繰り返した。馬場さんは「カミキリムシが怖い」というよく分からないトラウマを有しているので、坂口杏里を天丼する度に「カミキリムシ!」と天丼してやった。  「やっぱさ、坂口杏里に似てる坂口杏里っておかしいと思うわけよ」  「カミキリムシ!」  場外馬券場の中心で、良く分からないシュールな二人になっていた。本当にあの坂口杏里天丼にはまいったものだった。  もうそろそろ天丼が運ばれてきそうな気配だ。  「この間みたいに何回も坂口杏里のこと蒸し返すのやめましょうよ。そういう天丼は面白くないですよ」  いい機会なので天丼屋で天丼を待つ間に天丼をやめるように進言しておいた。しかしながら、それが馬場さんの坂口杏里魂に火をつけてしまったらしく、熱烈に語りだした。  「思うにさ、あれはきっと、自分は坂口杏里だけど坂口杏里ではないという深層心理の表れだと思うんだよ。つまり、自分の中の坂口杏里像と現状が乖離している現状を……」  面倒くさい理論展開が始まった。きっと今日は1レースごとに「坂口杏里だけど坂口杏里じゃない」という「さよならだけどさよならじゃない」理論が展開されるのだろうとうんざりした。  あまりに理論が長かったので話を聞いているふりしつつスマホで検索すると、冒頭の話題になるが、どうやらお笑いにおける“天丼”の語源は、天丼にエビ天が2本のっていることに由来するらしい。そう、天丼にはかならずエビ天が2本のっている。2つ重ねるという意味合いのようだ。  天丼が運ばれてきた。  どれどれ、エビ天が2本のってますかなー、さすがに語源ですからなあ、と期待を込めて覗き込むと、馬場さんが無理を言ってめちゃくちゃ安いやつをオーダーしたので、そもそもエビ天が乗っていなかった。野菜の天ぷらだけがこんもりとのっていた。さすがにこれは草。  「あれは坂口杏里だけど坂口杏里じゃない気持ちの表れ」  「きょう食べたのは天丼だけど天丼じゃない」  その日の競馬は1レースごとにこういった天丼の応酬に終始した。  「何回も食べたいもんな! 天丼」あの馬場さんのセリフが思いこされるが、あのエビ天なしの天丼はあまり食べたくないなあと思うだけだった。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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★連載1周年記念! おっさん総選挙“OSN57”開催中

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