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<純烈物語>“いいとこのお坊っちゃん”後上翔太に課した社会のハードル<第14回>

「おいおい、そんなやつを入れて大丈夫なのかよ?」

 芸歴ゼロにこだわったのは、酒井自身も歌の世界では最初の一歩からのスタートだったから。まだ何色にも染まっていないまったくの素人のサクセスストーリーを、頭の中で描いていた。そもそも、海のものとも山のものともわからぬグループに、売れている人間を引っ張り込むのは難しい。  だから、真逆である素人が持つ運を手に入れたかった。芸能界を見渡すと、ブレイクする人間は才能だけでなく「あれはラッキーだった」とのちに振り返る経験を例外なくしている。 「そんな不確定なものをアテにしてうまくいくのか」という見方もあるが、純烈をやっていく上で必須のピースというのが酒井の考えだった。なんの実績もなければ、その時点で1ミリたりとも実力をつけていないのだから、まるで運がないよりは強運の持ち主が一人いることで前向きにいられる。  後上と会ったあと、酒井は小田井と白川に報告する。当然のごとく、露骨なまでの異議申し立てがあった。 「おいおい、そんなやつを入れて大丈夫なのかよ? やめた方がいいんじゃないの?」  そんなリアクションを、すぐに後上へ伝え「あのおじさんたちは、おまえとやるのを嫌がっている。だからしっかりやれ。認めてもらえるように頑張ってみろよ」とハードルを課す。つまり、末っ子の翔ちゃんは純烈内において叩き上げのポジションに置かれた。 「最初は靴磨きから始まって、荷物持ちもやらせました。じゃないと、何から始めたらいいかわからないから。いきなりマイクを持って踊るなんてできないでしょ。もちろんそれはみんなもやることなんだけど、まずはおまえが率先してやらないと認めてくれない人たちもいるんだよということ。そしてそれは、おまえのプラスになる。  道具の大切さを知るということですよね。道具や衣装によって俺たちは純烈になれる。僕は子役時代に厳しく教えてもらってよかったと思うし、その自分が受けた恩恵は惜しみなく伝えなければ受け継がれていかない」  チャラついた日々を送っていた人間に、いきなり体育会系のような厳しさを与える。しかも後上は在学中で、社会を経験していない。普通に考えたら2、3日で逃げ出してもおかしくなかったはずだ。  それでも酒井は「いなくなったらなったでそれまで」という姿勢を貫く。白川のようにドラフト1位で契約金を投資するような逸材扱いではなかったから、後上は本当にゼロから経験し、学ぶ必要があった。 「社会経験のない若い人間にやらせるのは確かにハードルが高いんだけど、人間は環境の動物だから。素人でも日本代表メンバーに入れたら半年経てば変わってくるでしょう、ヘタな練習を続けるよりは。  俺も子役をやりたいといって飛び込んだら変わったもん。飛び込めば、何かその人の個性は残ってよけいなものが削がれていって花が開く。舞台を与えることによって人間は変われるということですよね。だから後上のポテンシャルは、本人より俺の方が信じていたんだと思います」  他のメンバーはみな何かしらを経験し、自立していた。その中で後上だけは酒井が手塩にかけて育てる必要があった。それは、将来的に自分の分身となってもらう狙いにもつながる。  帰る方向が同じとあって、酒井は運転免許を持っていない後上をいつも助手席へ座らせ送っていた。その中で、自分の意図や姿勢を語り、理解させていった。
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「後上には大勝軒の2号店をやってもらいたい」
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