更新日:2023年04月27日 10:40
エンタメ

誰もビートルズを知らない世界。映画『イエスタデイ』に号泣/鴻上尚史

誰もビートルズを知らない世界

 売れないミュージシャン、ジャックは、自分の作詩・作曲をした曲をいくら演奏しても、誰も注目しない。ある日、世界中が12秒、完全に停電するという「奇跡」が起こる。  その時に、まあ、これは解釈ですが、ジャックがビートルズが存在しない平行世界(パラレル・ワールド)に放り込まれたのか、または、この世界からビートルズの記憶が一切、消えたのか。  とにかく、ジャックが12秒の停電のために交通事故にあい、目を覚ました時には、彼しかビートルズを知らない世界になっていたのです。  そして、彼は退院したパーティーで、『イエスタデイ』を弾いて歌います。  友達は、感動して、「いつのまに、そんな名曲を作ったんだ!」と興奮するのです。  最初は、からかわれている思ったジャックですが、グーグルで「ビートルズ」と検索しても、かぶと虫しか表示されず、「本当に、この世界からビートルズが消えた」と確信します。  そして、自分が作曲したかのようにビートルズの曲を次々に発表するのです。  これから見る人のために、ネタバレは避けようと思いますが、この一点だけは、書かせて下さい。嫌だという人は、今週はここまで。
 だんだんと知られるようになって来たジャックに、ある日「エド・シーランだけど、僕のライブの前座に出てくれない?」という電話がかかってきます。  ジャックは、いたずらだと思って相手にしません。と、ジャックの家のドアがノックされます。開けると、玄関には、本物のエド・シーランが立っているのです! ご本人、登場です。  この瞬間から、この映画はビートルズファンのノスタルジーではなく、現在とつながる「まさに今の映画」になるのです。  そこから、さまざまなことが起こっていくのですが、ひとつ、絶対に書きませんが、ビートルズを知る世代には号泣してしまうシーンがあります。  映画館では、僕の隣に座っていた中年のおじさんが、しゃくりあげるように泣いていました。僕も、涙が止まりませんでした。映画で、ここまで泣いたのは久しぶりでした。  僕は、ビートルズマニアではなく、なんとなく好き、という程度です。それでも感動し、泣きました。  同じく、ビートルズで好きな曲が数曲ある、という人にお勧めの映画です。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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