更新日:2023年05月15日 13:39
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サウナにありがちな、せめぎ合い。おっさんの頭から香りしアロマ――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第75話>

まさかのナ行変格活用していたおっさん

 「…………」  隣のおっさんが何かブツブツ言っている。なんかかなりキマっている。  おっさんはかなり限界が近いようで、ベロンベロンに汗をかきながらまるで祈るようにして耐え忍んでいる。マリア様に祈るみたいな体勢で耐え忍んでいる。そんなにきついなら出りゃいいのに、って思うのだけどそうはいかないらしく、とにかく耐え忍んでいた。  「サウナ……」  おっさんはポツリと呟いた。サウナにいるんだからサウナと呟くことにそう違和感を覚えないかもしれないが、よくよく考えると違和感だらけだ。電車に乗っていて「電車……」とはあまり呟かない。うどんを食べながら「うどん……」とは呟かない。  「サウニ……」  おっさんは朦朧とした感じで意味不明な言葉をつづけた。  「サウヌ……」「サウヌル……」「サウヌレ……」「サウネ……」  なに言ってんだこいつと思ったが、しばらく考えて気が付いた。これ、ナ行変格活用だ……!  サウナをナ行変格活用しちゃあかんだろう、と思ったのだけど、それくらいおっさんは朦朧としていたのだろう。  予定通り10分でサウナを飛び出し水風呂、外気浴と行く。その次は2セット目となり、いよいよセルフロウリュのあるサウナだ。もう僕はワクワクしすぎて「サウナストーンが割れるまで水をぶっかけてやるぜ」と訳の分からないことを考えていた。そんなにぶっかけてはいけない。  そのサウナは先ほどまでいた普通のサウナの隣にあった。かなりの広さだった普通サウナと異なり、そこそこに狭い感じだった。8人も入れば満員になってしまいそうな狭さだが、それは水蒸気が充満しやすく、ロウリュ効果がかなり期待できるということである。  「いくぜロウリュ!」  ついにセルフロウリュの門をくぐる。  サウナに入ると、目の前に熱源となるサウナストーンがありその手前に「ご自由におかけください」みたいな感じでアロマ入りの水が用意されていた。完全にセルフロウリュだ。  「どれどれ、さっそく」  用意されていた柄杓みたいなものを手に取りドバーっとサウナストーンにかけてやろうかと思ったその刹那、尋常じゃない殺気みたいなものを感じた。刺さるような殺気だ。なにか、やってはいけないことをやってしまっているような、そんな違和感が体を貫いたのだ。  見ると、この狭いサウナには3人の先客がいた。入口から見て左側の上段に1人、右側の上段と下段にそれぞれ1人。彼らから只者じゃないオーラみたいなものを感じた。  「もしかしたら、ついさっきセルフロウリュしたばかりなのかもしれない」  あまり立て続けにロウリュをするのはよくないのだろう。おそらく効果が低いだろうし、なによりサウナストーンの温度が下がる。ここはもう少し様子を見てセルフロウリュするべきである。そういうことじゃないだろうか。  とりあえず左側下段に座って様子を見ることにした。
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そして過ぎ行くロウリュのタイミング
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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