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サウナにありがちな、せめぎ合い。おっさんの頭から香りしアロマ――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第75話>

我慢比べの末に現れたのは、あの……

 そうなると、期待できるのは新たに入ってくるニューカマーである。入ってきた勢いそのままに空気を読まずにジャーっとロウリュしてくれる可能性が高い。これに期待するしかない。入ってこい、誰か入ってこい。とにかく入ってこい。  ドアの向こうからガヤガヤと声が聞こえた。完全に誰かが入ってくる雰囲気だ。ぎいいいと音を立ててドアが開く。ワッと冷気がサウナ内を駆け抜け、それと同時にお調子者っぽい大学生風の男が二人入ってきた。モロタ!  お調子者の大学生はたぶんこの世で一番いきなりロウリュをする可能性が高い属性だ。完全に期待できる。いける。いける。いけっ! おらっ! いけっ!  「めっちゃ熱くない?」  「熱いわー」  この禍々しいまでの殺伐とした雰囲気に恐れをなしたのか、それとも本当に予想以上にサウナ内が熱かったのか、大学生たちは踵を返して出て行ってしまった。そりゃサウナは熱いだろ。ふざけてんのか。  また睨み合いが続く。ここまでくると意地だ。誰も動こうとしない。しかし、また誰かが入ってくる気配がした。こいつに全ての期待をかけるしかない。こい! こい!  きた!  「サウヌ……」「サウヌル……」「サウヌレ……」「サウネ……」  ナ行変格活用のおっさんだー! いきなりサウナのナ行変格活用しながら入ってきた。こいつはダメだ。耐えることしかしない。それしかできない。  案の定、ロウリュすることなく、僕の隣に座ってずっとサウナのナ行変格活用している。  こうして、あれだけ楽しみにしていたセルフロウリュなのに、ちょっとした行き違いでできず、限界を迎えたのでサウナを飛び出して水風呂に行くことになった。もう1セットサウナに入ろうかとも思ったのだけど、お調子者の大学生軍団で満員になっていたので断念することとなった。  「セルフロウリュできなかったな」  と脱衣所で反省していると、あのナ行変格活用のおっさんが洗面台で頭から水ぶっかけていたので、限界まで熱さを我慢したうえでサウナストーンのようになった頭に水をかける、これこそがセルフロウリュなのかもしれないと考えたのだった。  おっさんからは、ほのかにアロマの香りがしていた。 patoロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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