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怪奇!本当にあった幽霊スナック。ただならぬ気配を感じた女は…

酒が邪魔して本題に入れない

 もちろん、人が少ない時間に話を提供してくれたお客さんも何人かはいる。どういうわけか、わたしと同じ東北っ子が多く、比較的好意的に嬉々として話をしてくれる。怪異と親和性の高い土地で育ったことが影響しているのかもしれない。そうは言っても、これにも若干問題があった。うちの店へ来る東北出身者、ありえないほど飲む人間が多い。東北はそもそも酒飲みの多い地方だが、早い時間から一人でスナックへやってくるような選りすぐりは桁が違う。わたしなどは弱いくせに楽しくなって飲んでしまうタイプだが、彼女らは強いからこそ、ありえないペースでありえない量を飲む。そもそもいつも酔っぱらっていて、素面の時間が極端に少ない。席に着いて一口酒を飲み始めてしまえば、既にアルコールでふやけた脳はさらにとろけ出し、妙に目が据わり、一つの話を整合性を持って最後まで語ることは非常に困難になってくる。そして暴れる。それを聞いている側のわたしも同様に、徐々に耳から脳味噌が流れ出し、聞き終えるまでの集中力が保てなくなってくる。  というのは半分冗談だが、なんだか非常に効率の悪いことをしているのではないかと気付いたのは、青森出身のKさんから計二ヶ月くらいかけて一つの話を聞きだした時だった。  Kさんは、酔っていないと極端にシャイで口数が少ない。 「わたしもそういう体験あるよ」  と消え入るような声で告げられた時には、思わず身を乗り出して食い付いてしまった。 「どんな!?」  わたしの輝く眼差しを振り払うようにKさんは小さな声で言った。 「もう少し酔ってから話すね」    彼女がワインを一本開ける頃に再び訊ねてみたが、その返答は虚しいものだった。 「なんの話だっけ~~~?? 菅田将暉歌っても良いですかぁ~~??」  完全に別人格に変わっていた。そうこうするうちにわたしは団体客の対応に追われ、合間に常連客からもらったブランデーを煽り、その間にKさんはさらにもう二本ワインを開けて、一段落つく頃にはお互いにじっくり会話をする余裕などなくなっていて、殺伐とした空気を纏いながら東京事変の「修羅場」を二人で歌って終了した。  そんな繰り返しだった。業務のためわたしが話を中断し、次の瞬間には人間の言葉を離せなくなったKさんが出来上がっている。肝心の怪談話は序盤から一向に進まなかった。わいわい系スナック、一人とじっとりした話をじっくりすることにあまりにも向いていないと思い知らされたのであった。  ひと月も経つと、もう聞かなくても良いかな、そんなにたいした話じゃないかもしれないし……みたいな酸っぱい葡萄的な諦めの気持ちと同時に、こうなったら絶対最後まで喋らせてやるみたいな意地が生まれてきて、どうにかこうにか聞き出した話が以下のものだった。
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隣の空き店舗、入るべからず
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