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日産GT-Rの開発者が「お客さまのためにつくった車」とは

いまの仕事楽しい?……ビジネスだけで成功しても不満が残る。自己啓発を延々と学ぶだけでは現実が変わらない。自分も満足して他人にも喜ばれる仕事をつくる「魂が燃えるメモ」とは何か? そのヒントをつづる連載第206回 GT-R 水野和敏という自動車エンジニアがいます。彼は日産在職時代にフラッグシップスポーツであるGT-Rの開発責任者を務め、当時CEOだったカルロス・ゴーンから「ミスターGT-R」と呼ばれました。  そんな彼が執筆活動や講演活動でよく使うフレーズが「クルマはお客さまのもの」です。GT-Rを開発した際、彼は市場調査会社から「スーパーカーユーザーは、冬は4WDのSUVに乗っているから、冬にスーパーカーのようなものを持ってきたって商売にならない」という分析を受け取りました。  しかしその分析に納得がいかず、自分でアメリカのスーパーカーユーザーに聞き取り調査をしたところ、「彼らが『冬にSUVに乗っている自分』に満足していないことがわかった」といいます。彼らはただ安全のためにSUVを乗っており、いわば妥協の選択だったのです。  そんな彼らのために開発したのが、雪道でも安全に走れる「マルチパフォーマンススーパーカー」というコンセプトのGT-Rです。彼はこうした自分の経験を基にして、「クルマをお客さまのためのもの」「お客さまのためのクルマ作り」といった仕事論を提唱しています。  水野和敏はなぜこうした「お客さまのためのクルマ作り」をするようになったのか。やる気は常に「人物の影響」によって引き出されます。「あの時、あの人が、ああ言ったから」ということがあって、人は「だから自分はこうするんだ」と考えて行動できるようになります。彼が「お客さまのためのクルマ」を作るようになったのは、彼がまだ若かりし頃、販売店に出向した時に出会った、足に障害を持つお客の影響です。  彼がそのお客にクルマを売ったところ、半年ほど経った頃に「いまのクルマは色が気に入らないから買い換えたい」という電話があったそうです。「そんな理由でクルマを買い換える?」と思った彼は、「あなたのように体にハンディキャップのある人はいいですよね。僕たちみたいに汗水垂らさなくてもいい、クルマを買うにしても保険があって、税金の優遇もあります。クルマの色が気に入らないと買い換えて、優雅な生活ですよね」と軽口を叩きました。すると、そのお客は次のように切り返したと言います。 「そういう目でしかあなたはクルマを見られないのですか。あなたにとって、クルマはエンジニアリングの知ったかぶりの知識でしかないかもしれません。しかし下半身が不自由な私にとって、クルマは自分の足なんです。あなたは、クルマが自分の体の一部だと思ったことが一度でもありますか。  あなたはこれまで何のためにクルマを作りたかったんですか。お客さんのためじゃないんですか。あなたの話を聞いていると、いかに自分たちがいいクルマを作っているかという話ばかりです。でも、何のためにという答えは我々お客のほうが持っているんじゃないですか。  お客は、知識やメカニズムでクルマを買っているんじゃないんですよ。体にハンディキャップのある私が、あなたが洋服を着替えるみたいにクルマの色を変えたいという気持ちを、あなたには理解できますか」(水野和敏『非常識な本質』フォレスト出版より引用)
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