芸能人による不祥事の報道ではアルコール依存症の無理解が目立つ。“だらしない”と一刀両断するばかりで、どこか他人事なのだ。コロナ禍で依存症者が増えている今、無理解はさらなる悲劇を生む。“誤解”がなぜ生じたのか考えてみた。
漫画家・まんきつ氏(左)とソーシャルワーカー・斉藤章佳氏
アルコール依存症の理解を妨げる“アル中イメージ”
アルコール依存症に苦しんだ漫画家まんきつ氏と、依存症治療に長年携わる精神保健福祉士・斉藤章佳氏の対談から、アルコール依存症にまつわる誤解を読み解く。
斉藤:日本ではアルコール依存症予備軍は1000万人以上いると言われています。コロナ禍の外出自粛と同じで、今後、新しい生活様式によって働く時間が自由になると、飲酒開始時間が早まって相対的飲酒量も増え、アルコール依存症に苦しむ“ネクタイアル中”が増加する恐れがあります。
AUDITはWHOの調査研究をベースにした飲酒習慣スクリーニングテスト。2013年の厚生労働省研究班の調査がベース(特定非営利活動法人アスクより)
まんきつ:怖いですね。私は、面白いブログを更新しなきゃというプレッシャーから逃れたくてお酒に頼りました。最初こそ気分転換のつもりでしたが、朝からウイスキーを飲むようになって以降、飲酒欲求を抑えられなくなりました。
斉藤:飲酒開始時間が早まるのは問題飲酒の前兆です。そもそも飲酒歴には段階があります。「初飲」「常飲」の次が警告のサインとされる「問題飲酒」で、酒で何かを失う飲酒行動を指します。
「アルコール依存症にお酒の好き嫌い、先天的な耐性の有無は一切関係ない」と斉藤氏。連続飲酒は、他者の介入がないとお酒を断てない状態のこと
“お酒をやめざるを得ない状況に追い込まれた人”は、アルコール依存症
まんきつ:初のトークイベントでガチガチに緊張して「お酒を飲めば今を乗り越えられる」と思いワインをがぶ飲み。まったく記憶がなくて、翌日DVDで確認したらおっぱいを出していました。これも問題飲酒ですか?
斉藤:そうですね。単発なら笑い話で済みますが、飲むたびに問題飲酒になっていると、それは次の「飲酒パターンの変化」のステージで、アルコール依存症との診断がつくレベルです。手の震え、不眠、抑うつ状態、幻覚・幻聴といった離脱症状が表れます。
まんきつ:私の場合、空を見るとフェイクプレーン(飛行機に擬態しているUFO)が話しかけてきたり、家中のお酒を飲み干して料理酒にまで手を伸ばしたり……。
斉藤:以前はクリニックの消毒液に手を伸ばす患者もいましたよ。この「問題飲酒」から「飲酒パターンの変化」に移行する過渡期はグレーゾーンなので、依存症の見極めが難しい。コントロール障害、薬物探索行動など、専門的な指標はありますが、私の中では、“お酒をやめざるを得ない状況に追い込まれた人”は、アルコール依存症と言えます。