飲酒運転の誘惑、タクシードライバーはどう抗っている?
「カーン、カーン、カーン」
室内に響く甲高い警報音である。それは滅多に聞かない甲高い警報音である。それが鳴ったときには皆静まり返り緊張が走る。アルコール測定器の前では、真っ青な顔して立ち尽くすドライバー。その甲高い警報音の正体はアルコールを感知した音である。
出勤時、会社に来て朝必ず行わなければならないのが、検温とアルコールチェック。検温はコロナ禍における感染予防対策だか、アルコールチェックは法律にかかわる絶対的なものだ。もちろん勤務中に飲酒した形跡がないか帰社時も行う。
タクシーに限らず、運転の仕事をする者にとっては、このチェックをクリアしないことにはハンドルを握ることはできない。
アルコールのチェックに引っ掛かってしまった場合の事案はかなり重い。会社によっては、即刻停職また解雇というところもあるくらいだ。そのような厳重な処罰があるのを知っているにも関わらず、決してゼロにはならない。その甲高い警報音が鳴ったせいでタクシーという職も失う人は後を絶たない。
たとえ、アルコールの警報音が鳴っても、もう一度チャンスをもらえる。
飲酒をしていなくても発酵性の食品(パンや味噌)や栄養ドリンク、口臭剤にでもアルコール測定器は反応するからだ。アルコール臭を消すために口臭剤やガム、ハッカ飴などを使う人もいるが、これは逆効果なので気を付けたほうがいい。
上記のことが原因で測定器が反応した人たちの表情には余裕がある。当たり前だが飲酒をしていないからだ。口をゆすぎ数分おけばチェックはなんなりとクリアできる。しかし、そうでない人、飲酒が原因だと自覚している人は必死の弁解と奇怪な行動をとる。
「昨日はいつも通りの時間で飲むのをやめたはずなのに出るはずがないですよ」
「昨日は一滴も飲んでませんよ」
と言いつつ、こうなることのために事前にネットで調べていたのか、アルコールチェックをクリアするために、たらふく水を飲んだ挙句にゲップをしたり、深呼吸を何度も繰り返したり、腹式呼吸をしたりと奇怪行動をする。しかし、結果は同じ……甲高い警報音が鳴り響く。
それでも往生際の悪い人は、
「測定器、壊れていません?」
と測定器に疑いの目を向け、内勤者にアルコールチェック機の製造年月日を聞く始末。このようにアルコール測定器の前では滑稽劇が広げられる。
タクシー業界のみならず、世の中の一般ドライバーたちも車を乗るならアルコールはご法度だ。飲酒運転による悲惨な事故などニュースで目にしているはずだが、それでも飲酒運転はなくならはい。それは、人命を預かるタクシー業界も一緒である。
測定器の前で繰り広げられる滑稽劇
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物流ライター。ライター業の傍らタクシードライバーとして東京23区内を走り回り、さまざまな人との出会いの中から、世の中の動向や世間のつぶやきなど情報収集し発信する。また、最大手宅配会社に長年宅配ドライバーとして勤務した経験とネットワークを活かし、大手経済誌のWEB版などで宅配関連の記事も執筆する。タクシー・宅配業界の現場視点から、「物」・「人」・「運ぶ」・「届ける」をそれぞれハード(荷物・人)だけではなく、ソフト(心と気持ち)の面を中心に記事を執筆中。ブログ「吾は巷のインタビュアー!」
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