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「note」が生んだ作家・岸田奈美がファンに愛される理由

物語を作る力はみんなが持っている

 岸田氏の文章は、家族の辛い境遇も笑いを交えて書くのが持ち味。笑い泣きしながら読むうちに、気づけば心揺さぶられ、温かい気持ちにしてくれる。 「人は物語に救われていると思っていて。出来事の結果に感情があって、その経緯や理由に物語がある。その感情に行き着くまでに、何百通りものエピソードから一つを選ぶことが“物語を作る”ということだと思うのですが、物語を作る力は作家でなくても、本来みんなが持っているもの。だから、私のnoteを読むことで、読んだ人は自分の物語を語りたくなる。私の家族の物語をきっかけに、自分の家族について考えたり、自分の物語に取り込んでくれた方が多かったのは、とても嬉しかったです」
岸田奈美さん

ベンチャー企業の広報で培ったプレゼン力の高さで取材に応じる岸田奈美さん

 その語り口にファンが多い岸田氏。影響を受けた作品は? 「もともとオタクだったので、二次創作で小説を書いたこともありました。でも、“小説家”として第一線で活躍するあさのあつこさんや伊坂幸太郎さんみたいな存在にはなれないなと思ったんです。実際、私には純粋な文章力はあんまりないけど、読者の方には全体的な雰囲気や人柄みたいなものを好きだと言ってくれる人が多いように思います。 エッセイを書いてみようと思ったときも、流行りの“エモい”文体を真似てみたこともあったのですが、筆が乗らなかった(笑)。いろいろと文体模写した結果、さくらももこさんや向田邦子さんのような軽妙な文体に行き着いたんです。さくらももこさんのエッセイ『もものかんづめ』は、ちょっと憎らしくてちょっとマヌケな家族を時に辛辣に描きながらも、とにかく笑えて最高ですよね。あと、ラジオが舞台の漫画『波よ聞いてくれ』のセリフのテンポの良さや、謎の例え話がすごく好きです。 印象に残っている作品といえば、ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』という映画は、父が亡くなったときに父の同僚の方からDVDをいただいたんです。お父さんが子どもにホラ話をして喜ばせていたんだけど、成長した子どもがそのウソにイライラしてしまうっていうお話なんですけど、うちのお父さんと激似で(笑)。私も今、お父さんが語っていた本当か嘘かわからないような話をエッセイにしている中で、何が真実かじゃなくて、何を信じるかが大切だなって思ったりします」
幡野広志さん撮影

本に綴じられた家族写真は写真家・幡野広志に撮影してもらったもの

彼女が今、書く理由

 意外にも戦略的な一面に驚くが、もともとはベンチャー企業の広報出身。 「元来、そんなにロジカルなタイプではないんですが、広報の仕事で揉まれていたこともあって、世情の移り変わりには敏感。誰かを傷つけないようにといつも気をつけています。今までは会社のために書いていた文章を、今は初めて自分のために書いています」  家族に起きた壮絶な経験を、これまでは「忘れることで乗り越えてきた」という彼女が今、書く理由とは? 「書き起こすことで改めて気づくことや、思い出すことがたくさんあります。辛かった記憶を自分で面白おかしく書くことで、人に何かを与えられる。そうしている自分が私は好きだし、書くことで自分自身が救われるという一面もあるんだと思います」  現実を物語として語り直すことで、書き手にとっても読み手にとっても救いになる。それが、SNS時代の新しい作家活動なのかもしれない。
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