郵政改革時の菅総理の動向
――菅首相の動きは?
小林:
当時はまったく注目していなかったけど、菅さんだって最初は、反対っぽかったわけだよ。菅さんに限らず、普通の人はみんなそうでした。地方議員は郵便局と仲良かったわけで、良くも悪くもまず反対した。そのあとは、各地域の郵便局長が陳情にいって、地方議会の人は次々と反対決議した。うちの選挙区の練馬区だって、豊島区だって、全部反対したんですよ。郵便局長は地元の名士だった。それがこぞって反対したわけだから、自民党も反対したわけなんです。
そんなこと、自民党にいる人なら、こぞって反対だったわけです。だから、勉強して、論陣をはって反対した。もちろん、一部は票のためって人もいただろうけども、たとえば、自民党議員が100人参加する会合があって、80人は反対でしたからね。15人は賛成だけども、小泉総理がいうからいいじゃないかっていう理由。それは、政策論とはいえないじゃない。そこに3~5人だけが、「民営化すれば便利になる」っていう。それがいかに間違っていたかは、昨今のかんぽ生命問題などを見れば火を見るよりも明らかですよ。
菅さんだって、小泉派にいたわけじゃないですからね。80人反対したら状況をみててね、彼みたいなタイプだと多数派についていたよね。彼は「小泉さんがんばれ」なんていったわけじゃないけど、いよいよ選挙が近づくにつれてこう判断したんでしょう。「党内では政策論では反対のほうが人数は多そうだけど、小泉さんはテレビにでて国民からの人気がある」と。「じゃあ、自民議員の声を信じるよりもね、小泉さんの声を信じよう」と。
少なくとも、小泉さんは「郵政民営化に反対したら、処罰する」といったわけだから、処罰されたらいいことないから。それでどっちつかずの顔しながら、最後は小泉さんの味方をして、本会議でも当然、反対票なんかいれずに賛成したと。
――その後、菅首相は竹中平蔵氏につていきましたね。
小林:それが正解だったんですよ。竹中さんは、小泉さんに一番信頼されている。そうやって、竹中総務大臣の下で、総務副大臣というポストを得たわけです。状況を見て、強いほうについて、ごまする。どこが一番票をとるだろうってね。その次は、小泉さんの直系である安倍さんにずっとついて行ったわけです。
彼はよくわかったんでしょう。日本では、「本当のことを言っちゃよくない」と。アメリカのいいっていうことに逆らったらね。私なんかそんな力なかったけども、力のあった亀井静香さんとか、平沼赳夫さんとか、総理候補といわれた立派な人材がね、全部放逐させられたのが郵政解散でしたね。
――それ以前の菅さんはどうだったのでしょうか? 1998年の総裁選で、梶山静六氏をかついだともいわれますけど。
小林:梶山さんは、亀井さんたち志帥会の幹部がすきで応援していたくらいでね。菅さんはぜんぜん、印象なんてないですね。いまはテレビ、新聞がいろいろいっていますけども、官房長官やっているときだって、安倍さんの横にいただけで、何の政策もなかったと思いますよ。
――菅さんの肝いりではじまった政策はありますよ。ふるさと納税とか。
小林:ふるさと納税なんて、自治体間の返礼品競争をやみくもに煽るような政策だから、地方税制上、大問題ですよ。それに、
ふるさと納税の件で、何が一番印象にのこったかっていうと、ふるさと納税に反対した優秀な、事務次官候補だった総務官僚を菅さんが左遷したことでしょ。「おれの意見と違う」ということで。
厚労省だって、菅さんの側近である和泉洋人補佐官と仲がいい女性が出世していると聞くじゃない。あれ聞いたら、まともな人は近づかないですよ。霞が関に。あの二人が、山中慎也京大教授の関連予算だってバサッときっちゃうわけでしょ。それみたら国民だって、「ああ、勉強なんかしちゃいけないな……」って(笑)
農水省も有名な話があるでしょ。菅さんが、次官候補を含む優秀な者をぜんぶとばして、「農業なんかいらねえ」なんていいかねないような官僚を事務次官にもってきたと言われていますよね。霞が関に、優秀な人材がいなくなってしまいますよ。
私も官僚出身だけど、官僚は政治家個人のためじゃなくて、国家のために働いているわけだからね。意見が違うやつがいれば、ちょっと聞いてみようとなっちゃうのが普通じゃない。それが、情け容赦なく、「何言ってんだおれの意見に反対するんだったら出ていってもらう」と。それだからね。いま菅さんははっきりと言っていますよね。「反対する人はでていってもらう」と。
議論を求めてくる人を切る半面、自分に対するイエスマンを徹底的に出世させちゃう霞ヶ関も「じゃあ、イエスマンになっちゃえばいいじゃない。出世するんだから」という感じになるよね。優秀な官僚は残りませんよ。「菅さんが言っていることを黙ってやる」というタイプだけになる。
――なるほど。
小林:郵政民営化のときに、党内議論を封じて、「反対したら除名」というふうにして、政治をめちゃくちゃにしたのが小泉さんですよ。歴史を振り返ると、イギリスでホイッグ党が過去に、党首の意見に反対する者は、公認しないということをやったんだけど、結局、その党がなくなってしまった。
党内の議論や意見の多様性を確保しないというのは、そのくらい政党にとっては危険なわけ。でも、郵政解散もあったし、ただでさえ今は小選挙区制で、金と人事権を党に握られているから、政治家はヒラメ化するしかない。官僚もそうでしょ。
それを役人ベースでやったのが菅さんですよね。内閣人事局で、官邸に人事を握られているから、菅さんのいうことにさからえない。システムとして、イエスマンになるしか出世できないようになっている。
本当に、優秀な官僚がやる気をなくして、優秀じゃない官僚がやる気をだすわけだ。出世しそうにないやつが出世するわけだからね。「ああ、ごまさえすれば出世できる」ってなるでしょう。
それで、官房長官時代にそれを続けてたら首相に出世しちゃった。ということは、菅さんの官僚をめちゃくちゃにする人事が、評価されているということになる。政治主導とかいってね。いわば、政治家を殺したのが小泉さんで、官僚を殺したのが菅さんだよね。完膚なきまでに、日本の政治行政を壊した。あっぱれですよ。もう気の利いたやつにとっては、ばかばかしいことになっているわけ。
――昔の霞が関だったらどうなるのでしょう?
小林:「バカ、お前に人事ができるのか」ってなるでしょ。600人の人事だって。官僚は勉強ができますからね。「だったら学校の通信簿だってもってこいってんだ」ってなりますよ(笑)。正直言って、肝心のテレビ新聞も一緒になってゴマすっているわけだから。菅さんは安心じゃないかな。
〈文/日刊SPA!取材班〉
1944年生まれ。66年に東大法卒、通商産業省(現・経済産業省)入省。ペンシルバニア大学大学院でMBA取得。83年に通産省退官、衆院選に出馬するも落選。90年の衆議院選で初当選。2002年には小泉政権で財務副大臣を務める。05年7月の郵政民営化法案に反対し、「郵政解散」で自民党を追放され落選。09年8月の総選挙で民主党比例区東京ブロックから出馬し、衆議院5期目の当選を果たすが、12年に消費増税に反対して同党を離党。2012年12月の衆院選に日本未来の党から立候補するも落選。以降、複数の政治団体を自ら立ち上げ、政治活動を継続している。