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「駅前食堂」を引継ぐ洋食店。50年以上の歴史を支えるメニューと味付け

看板メニュー「豚からし焼肉」

町洋食

「豚からし焼肉」(730円)に黒カレーソース(280円)をつけた稲田さんオススメの組み合わせ。ご飯の量が足りなくなること必至だ

 現在のABCで、一連のクラシックメニューと並んで人気があるのが「豚からし焼肉」。今や看板メニューと言ってもいいかもしれない。  この「からし」は、黄色いからしやマスタード、赤い唐辛子系統ではなく、黒胡椒。塩味ベースの豚バラ炒めに黒胡椒を効かせたABC伝統の甘辛味とはある意味対照的ながら、しっかりパンチの効いたぐっと現代的な味わいだ。  味つけの決め手はなんと塩麴。誕生は10年ほど前に遡るが、当時ほとんど知られていなかった塩麴を使った先見の明には驚かされる。  ABCに塩麴を持ち込んだのは稲田義雄社長。もともと料理人であるが経営に専念する社長は、精力的な食べ歩きとデパ地下食材店巡りを欠かさない。  目ぼしい料理に出合うと、正之さんに「こういうものは作れないか」と持ち込み、デパ地下で興味を持った調味料や食材はメーカーを調べて、調達の交渉に入る。  自ら「せっかち」を自認するだけあって、フットワークは軽い。からし焼肉もそんな中で生まれた大ヒットメニューだ。

時代を超えて多くの人々に愛され続ける

町洋食

キッチンABC西池袋店

「社長はすぐにむちゃ振りしてくるんですよ」と、愚痴めかして語る正之さんはむしろ楽しげである。料理の発案は社長や各店店長だけでなく、全てのスタッフからも上がってくる。  稲田社長のスタンスは基本「とりあえずやってみりゃいいじゃないか」というものだ。  だからキッチンABCは、50年間変わらぬ暖簾を掲げ続けた一方で、その中身は柔軟に変化し続けている。  一時期はビーフシチューやソテーものなどに力を入れた高級洋食店路線の「レストランABC」もあった。結局「やってダメだったから元に戻った」わけだが、そこのメニューの一部は、ちゃっかり定番の一角に受け継がれる。  そうやって、これからもキッチンABCは軽やかに生き残って、そして時代を超えて多くの人々に愛され続けていくことだろう。 【稲田俊輔】 鹿児島県生まれ。自身も飲食店を手掛ける飲食店プロデューサー。著書に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社)、『南インド料理店総料理長が教えるだいたい15分!本格インドカレー』(柴田書店) <取材・文/稲田俊輔 撮影/後藤 巧>
関東・東海圏を中心に和食店、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの飲食店26店舗を経営する円相フードサービス専務取締役。自身は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に業態や店舗プロデュースを手がける

飲食店の本当にスゴい人々

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キッチンABC西池袋店
東京都豊島区西池袋3-26-1
ランチ11~16時(ラストオーダー15時30分)、ディナー17~22時(ラストオーダー21時30分)、年末年始定休
取材した西池袋店の他に東池袋店、南大塚店、江古田店がある
(コロナの影響により営業時間はお店にご確認ください)

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