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コロナ不況下で、安倍政権が“増税派”の日銀委員を推すことの愚/倉山満

日銀人事だけは間違えなかった安倍政権が、最後の良心をも失おうとしている

言論ストロングスタイル

’12年、消費増税について意見陳述した当時経団連税制委員の中村豊明氏。いくら今後は「イエスマン」になるといえども、「増税派」が日銀委員に推されている事実を見逃してはならない 写真/時事通信社

 安倍晋三と小池百合子。二人は、「日本で一番パニックを起こしている人間」の座を奪い合っているのか? 安倍首相の自粛要請に続き、小池都知事も「首都封鎖」にまで言及、外出を控えろと命令口調だ。  新型コロナウィルスは、未知の病原体なので警戒は必要だ。だが、そのやり方が不味すぎる。恐怖に打ち勝たなければならない時に、恐怖を拡散してどうする?  安倍や小池に限らず、為政者たちから伝わってくるのは不安と無責任、それでいて「権力を行使してみたい」という欲求だけだ。小池都知事は記者会見まで開いて、都民の週末の外出自粛を要請した。近隣の県も東京への移動を控えるよう呼びかけた。要請だの、呼びかけだの、見るからに自信がない。イベントの中止を求めながら補償をする気もない。  17年前、あまりの規制と役所の縦割りで、「レインボーブリッジが封鎖できない」ことをテーマにした映画が大ヒットした。小池都知事はいつのまに法的問題を解決したのか。橋一本止められないのに、東京都封鎖なんて可能なのか? そんなに東京と他の県の接触を断ちたいなら、まずは都営線を封鎖してみてはいかがか。率先垂範もできない人間に権力を握らせた現実を、有権者は反省すべきだ。

新しい日銀委員に、政府が推す人物の問題とは?

 現在、日本が何とか持っているのは、日本銀行の金融政策が不十分ながらも機能しているからである。12年前のリーマンショックの時、当時の日本銀行総裁の白川方明は、明らかに日本経済を、日本人を殺しに来ていた。首相の麻生太郎の無能と合わさり、文字通り日本人は地獄に落とされた。それに比べれば現在の黒田東彦日銀総裁に不満はあっても、少なくとも白川時代よりは遥かにマシであるのは間違いない。  これまで安倍内閣は、アベノミクスによる景気回復によって支えられて、憲政史上最長政権となった。問題だらけの政権運営だったが、それでも日銀人事だけは間違えなかった。先日も「安倍内閣最後の良心」として、エコノミストの安達誠司氏を日銀委員に推した点を、最近の私では珍しく激賞した。そして本当に「最後」になってしまったようだ。  6月で任期が切れる布野幸利委員の後任に、政府は中村豊明氏を提示してきた。布野氏はトヨタ出身、中村氏は日立出身。日銀委員には「枠」があり、産業界枠の交代である。その枠の正当性はともかく、それでも中村氏が人畜無害であるなら許せもしよう。ところが、中村なる人物、このデフレ下でさらにデフレを悪化させた前科があるのだ。  8%消費増税が行われようとする前の平成24年8月6日、中村氏は参考人として呼ばれ、経団連税制委員会の企画部会長として発言している。ここで中村氏は「デフレ下であっても増税を推進すべし」と言い切っている。その結果は、アベノミクスが腰折れ、当初の劇的な回復は失われた。経済的知見に著しく欠ける不適切な人物だ。
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日銀委員一人がどれほど重いのか
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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