競艇は最初のターンでレースの8割が決まる。競馬のように最後の直線で追い上げたり、競輪みたいに最後の1周でラインがバラバラになったりもしない。最初のターンで一番前に出た選手が基本的には勝つ。20分近くかけて予想をしても、最初の10秒で自分の買った舟券の行く末がわかる。儚いギャンブルだ。バカラに似ている。 　だが、この11Rではなんと唯一のB2級だった森選手が圧勝した。最初のターンもさることながら、直線の伸びもその後のターンも素晴らしく、負けたレースなのに2回も見直してしまった。素人目に見ても、 「もしかしたらこれは勝つべくして勝ったレースだったのではないか？」 と思えてしまった。そのくらいこの日の森選手の走りはカッコよかった。 　事務所内では、 「なんだよすげー薄いところじゃん」 「100円で10万か。こんなの買えねーよな」 と口々に言ってはいたが、僕はこの森選手の走りを見て、 「明日は森だな」 なんて軽口を叩きながら解散した。優勝戦は明日。僕は森選手優勝に賭けようと思いながら帰宅して、寝た。 　宵越しの銭を持たないとはよく言うが、この日は宵越しの興奮も持たなかった。次の日が夜勤だったので睡眠サイクルを合わせるために夜更かしをした。朝の10時頃に眠ると、仕事終わりにチョロっと見ただけの競艇なんてすっかり忘れてしまっていた。 　今の僕は真面目に働いているので、開店前のパチ屋に並んだり、明日の競馬を楽しみに寝られなくなることなどないのだ。 　夕方17:00。一通のLINEが入る。 　森選手が圧巻の走りでB2ながら初優勝。オッズは400倍だったという。 　森選手の走りは確かだった。買っていた未来は、昨日、寝るまではたしかにあった。 　買うなら5-全-全で1,000円ずつ、合計25,000円の勝負をかけていた。 　40万円勝っていた未来があったかもしれない。でも買ってない。 　買っていない人間が後から何を言ってもひたすらにダサいだけだ。 　汗と後悔が噴出する。何もしていないのに、負けるような情けないこともしていないのに。今日も今日とてしっかり働こうと思って健康に過ごしていただけなのに。 　昨日のうちに100円でも買っておけばよかった……。 　僕は今日も働く。草3つのなかに一つずつ、大きな後悔を隠して。〈文／犬〉フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。 Twitter→@slave_of_girls note→ギャンブル依存症 Youtube→賭博狂の詩