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なぜ文春砲だけが特別なのか。元編集長が明かす秘密組織の実態 

自らタレコミ電話をかけ旅行に出かける伝説の記者

 経費を使ったからといって、必ずしも取材が成功するとは限らない。過去には怪しい記者もいたという。 「私がデスクのときには、伝説の記者がいました。自ら編集部にタレコミの電話をかけ、取材と称して彼女と沖縄旅行に出かけたようです。  沖縄から『取材は難航しています』と電話がかかってきたので、意地悪に『次の取材もあるから帰ってくるか?』と聞くと、『いえいえ、もう少し沖縄で粘ってみます』と。案の定、日焼けしただけで、なんの収穫もなく戻ってくるんですが、この記者は、次の週は汚名返上とばかりに特大のスクープをとってくるんですよ」 kimata03 文春の強さは潤沢な取材費だけではない。事実関係を徹底的に詰める記者の取材力は同業他社も舌を巻く。 「他誌では取材と執筆の分業制を取っているところが多い。一方で、文春は経験が浅くても、ネタを持ってきた記者が重要な取材をし、記事を書きます。ネタを持ってくる人が一番尊敬される。そして、散々訴えられてきたから、徹底的に裏を取るように記者は鍛えられています」  他誌が訴訟リスクを懸念し、スクープから撤退していくなか、文春記者との取材力の差は広がっていく。

老舗なのに社長も編集長も“さん”づけの不思議な会社

 さらに、文春の忖度のない社風も読者に問題提起できる記者を育てるという。 「多くのメディア・出版業界はオーナー一族の影響力が今も強いですが、文藝春秋は社員持株会社です。忖度とは無縁で、社長も編集長も“さん”づけ。上下関係のない社風だから、年間契約の記者と社員の関係もいい。記者はみなノンフィクション作家の卵という位置づけで、社員は尊敬しています。そういう社風もあって、なにが正しいかを決めつける上から目線の記事は誰も書きません。まず第一に当事者の声を聞こうとします」 kimata02 一見、死角なしの文春だが、木俣氏は一抹の不安を覚えている。 「2012年、局長となった私は新年会の挨拶で『ABC(実売部数調査)の1位に慣れてないか君たちは? そんなところでとどまってはいけない、あらゆるメディアを置き去りにする圧倒的な1位を目指しましょう』と言いました。ちょうど新谷くんが週刊文春の編集長になった年です。これは本音でしたが、口にした瞬間、嫌な気持ちになった。平成初期、文春の黄金期で、おごりが芽生えた瞬間、あらゆる悪いことが襲ってきたことを思い出したんです」
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最強と言われるほど怖い あっという間に国民の敵に
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