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トルコリラショックで大損した人たち。200万円が800円に

被害者を増やし続けるFXの構造

 実は今回の「令和のトルコショック」は、歴史に残るほど多くの“借金”を生んだ事件だった。投資ライターの高城泰氏が話す。 「今回発生した国内FX会社の未収金総額は14.2億円に達しました。データを集計している金融先物取引業協会によると、その額は過去3番目の大きさ。あくまで個人投資家が抱えた借金額なので、トータルの損失はその何十倍もあったと予想しています」 トルコリラ 損失を限定するシステムがありながら、なぜ繰り返し借金を抱えるFX投資家を生んできたのか? その原因はFXの仕組みにある。FXのシステム設計に携わり続けてきた尾関高氏は解説する。 「FX会社は取次業者みたいなもの。インターバンク市場の参加者である銀行や証券会社から為替レートを仕入れて、投資家に提供しているわけです。取引量の多い米ドル/円のようなメジャー通貨ならいくらでも仕入れられますが、トルコリラのような新興国通貨で、さらに対円という超マイナー通貨ペアは仕入れ先が限られる。  おまけに、中銀総裁更迭のような大事件が起きたあとは、仕入れ先がレート配信を渋る。『約定してほしくない』という思いで、『売値12円/買値14円』というふうにスプレッド(売値と買値の差。トルコリラ/円の平常時のスプレッドは1~2銭)を大きく広げて提示してくるんです。  平常時ならまず約定しませんが、休日を挟んだ早朝の参加者が乏しい時間帯に、強制ロスカット注文が大量に発生すると、それが約定してしまう。FX会社は適切なレートでロスカットを執行したくても、『適切なレートがない』ため、不利なレートで強制決済せざるをえないのです」  不可抗力のため、借金を抱えた投資家には返済義務が生じる。 「海外では“ゼロカット”という、未収金の返済を要求しない仕組みもありますが、未収金はFX会社の立て替え金。顧客からの回収を放棄する行為は、日本では損失補塡・利益供与の違法行為に当たるので、FX会社は返済を求めざるをえないのです」(荒井哲朗弁護士)

知識の乏しい高齢者が、勧誘の対象に

 とはいえ、トルコリラ被害者を増やした一因はFX会社にある。 「商品先物取引では、不招請勧誘(勧誘を要請していない顧客に対する勧誘行為)が禁止されていますが、東京金融取引所による『くりっく365』というFX商品はその対象外。それをいいことに、FX会社は多くの高齢者を勧誘し、高金利を売り文句にトルコリラへの投資を勧めてきました。くりっく365でのトルコリラ投資を新規顧客開拓のツールにしてきたのです」(FX会社関係者)  高城氏によると「トルコリラ/円取引の67%を東京市場が占めている。これとは別に対ドルの取引もあるが、世界のトルコリラ取引の半分近くを日本が担っていると推計される」という。  裏返せば、令和のトルコショックで大損した投資家の大半は日本人ということ。「リスクのある通貨だけでも最大レバレッジを引き下げるなどの対策が必要」(FX会社関係者)との声も漏れるが、トルコリラ投資の現状を放置していいのか? 議論の余地がありそうだ。
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損切り注文のスリップなどで違法性の認定も
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